研究課題
新型コロナウイルスのmRNAワクチンでは,アナフィラキシーに加え,約8割に発熱等の免疫過剰応答による副反応が生じている.変異ウイルス株の流布により,3回目や若年層の接種が必要となり,更に増強されるであろう副反応への懸念が大きくなっている.また,次なる新興感染症に対しても,ワクチンが感染防御に必須と予測される一方,副反応とその懼れから接種を忌避するリスクが,ワクチン開発と並ぶ課題に浮上している.そこで本申請では,ワクチン副反応を予防・治療する『免疫調節薬』の開発を試みた.申請者らは,マクロライド系抗菌薬には細菌を殺滅する主作用に加え,種々の新たな副作用があることを明らかにしている.そのマクロライドの副作用の1つが,免疫調節である.すなわち,免疫系を正常に維持する作用である.しかし,マクロライドは,抗菌作用により耐性菌が激増したため,日本政府の「薬剤耐性AMRアクションプラン」により,厳しい使用制限が課されている.申請者は大学間協定を締結し,抗菌作用が低下したマクロライド改変体ライブラリを分与されている.このマクロライド改変体ライブラリから,抗菌作用が無く 免疫調節作用のみを有する『ネオマクロライド』を選出し,iPS樹状細胞とアナフィラキシーマウス等にてワクチン副反応に対する予防・治療効果を検索した.必要に応じて,理学部分担者による化学修飾を行い,免疫調節作用の活性増強も図った.さらに,マクロライドが呈する難溶性により,生体での吸収性と移行性が低下する課題を解決するため,工学部分担者によるナノバブル化技術を応用し(ナノバブル製造装置の開発と改良も実施した),ネオマクロライドの溶液中での分散安定化,そして組織での吸収性と移行性の改善も試みた.
2: おおむね順調に進展している
本申請実験で使用するマクロライド改変体ライブラリについては,本計画開始前より一定数の化合物の収集(MTAおよび大学間公式協定を締結しての分与)を済ませていたが,化学修飾の専門家により更なる構造改変を行い,新たな有望化合物のマクロライド改変体ライブラリも追加で収集することができている(その際にも,各種の法令と規程および研究倫理に則り,MTAを締結した上での譲渡を受けている).また,それらの有望化合物のマクロライド改変体は,in vitroでのスクリーニグを終え,in vivo用の大量調整へと進めることもできている.in vitroでのスクリーニグでは,免疫調節能を有するマクロライド改変体化合物を複数種選出することができている.また,耐性菌の懸念を払拭するための抗菌作用が無い化合物もマクロライド改変体ライブラリから選出できている.そして,もう1つの研究項目であるナノバブルに関しても,ナノバブル製造装置をベンチャー企業と共同で開発し,各種実験を経ながら耐久性や簡便性,冷却性能や装置安定性について,段階的にアップデートを行い,順調な装置の改良を果たしている.さらに続いて,ナノバブルによるin vitroでのヒト細胞株への為害性実験を行い,安全性も確認できている.
2023年度は,以下の(1)から(3)の項目を順に実施する方針でアル.すなわち,(1) マクロライドの難溶性を解決するため,国産技術のナノバブルを用いて分散懸濁化を試みる.ナノサイズの気泡は直径が微小なため,浮力が殆ど生じない.その結果,溶液中の超微小気泡は水面まで浮上せず,長期間,液中にて保持される.この原理を活用し,自作のナノバブル装置にて,直径50-100 nmの気泡をマクロライド懸濁液に充填する.4-37度・1-5 ppmの充填条件から,24時間以上 マクロライドを安定分散化できる組み合わせを決定する.(2) in vitro系にてネオマクロライド候補の選出とナノバブル懸濁条件が確定すれば,アレルギーモデルマウス(CLEA社)にてin vivo解析を行う.アレルギーモデルマウスはメーカー指示書に従い,OVAを投与しアナフィラキシーを誘発させ,ネオマクロライド候補の事前投与による予防効果,ならびに事後投与による治療効果の検索を行う.(3) ネオマクロライド候補がin vivoスクリーニグされれば,市販の肺炎球菌ワクチンおよび使用期限の切れた廃棄予定の新型コロナウイルスmRNAワクチンを準備する.アレルギーモデルマウスとコントロールマウスにネオマクロライド候補を投与し,ワクチン副反応の事前投与による予防効果,ならびに事後投与による治療効果のLuminex解析を行う.また,マウス専用パルスオキシメーターおよび非接触体温計にて経時的な観察も行う.そして,ワクチン主反応の抗体誘導を阻害しないこともELISAキットにて確認する.
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