研究課題/領域番号 |
22K19619
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山口 雅也 大阪大学, 大学院歯学研究科, 准教授 (00714536)
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研究分担者 |
川端 重忠 大阪大学, 大学院歯学研究科, 教授 (50273694)
内橋 俊大 大阪大学, 医学部附属病院, 助教 (60757839)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 微生物叢 / 腫瘍 / ネオエピトープ / 核酸ワクチン |
研究実績の概要 |
近年、ヒトの腫瘍に特異的な細菌が定着しており、腫瘍の種類に応じた微生物叢を構成することが明らかとなってきた。微生物叢は、炎症や局所での免疫抑制を引き起こし、腫瘍の微小環境に影響を及ぼす。一方で、微生物叢は人種や生活習慣によって大きく変化することが知られており、日本人集団における腫瘍微生物叢の構成は不明な点が多い。本研究では、口腔扁平上皮がん患者らの微生物叢解析を行うとともに、腫瘍細胞のMHCの解析を行い、口腔がん特異的な、ネオエピトープとしての微生物叢由来ペプチドの探索を行う。さらに、ワクチンによる細胞性免疫の誘導と細胞傷害性を検証することで、新たな腫瘍治療法の可能性を探る。 本計画で探索する腫瘍に提示される細菌ペプチドは、患者間で共通の腫瘍特異的抗原として機能する可能性がある。このような治療に有用な抗原は、これまではウイルス感染によって引き起こされる腫瘍でしか見つかっていなかった。腫瘍への細菌の侵入は一般的な現象である可能性が示されており、本研究は、さまざまなタイプの腫瘍に共通する腫瘍特異的抗原の決定につながりうる。 今年度は、白板症などの前がん病変の患者らから検体を採取する倫理審査の承認を得て、収集を行った。得られた一部の検体については微生物叢の予備的解析を行った。また、mRNAを用いたがんワクチンを構築するため、目的遺伝子の設計、発現プラスミドの構築、in vitro transcription(IVT)反応、mRNAの精製について実験プロトコールの確立に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナ感染症による影響などで、倫理審査委員会の承認を受けるのに当初の予定よりもやや時間を要したが、臨床検体の収集を進めている。また、一部の検体についてはすでに微生物叢解析を行っているとともに、核酸ワクチンのプロトコール確立に着手している。以上のことから、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画は3ヵ年で実施するものである。原則として当初の計画に沿って実行する。臨床検体の収集については、当初の予定通り3ヵ年を通じて扁平上皮がん、ならびに前がん病変として白板症患者から被験者を募る。同意が得られた被験者から、検体として唾液ならびに腫瘍組織を収集する。 また微生物叢解析について、16S rRNAを解析対象とした細菌叢解析を行う。メタゲノム解析の結果を踏まえ、典型例となる症例について細菌シングルセルゲノム解析を行う。 細胞株を用いた侵入試験では、代表的なヒト口腔扁平上皮がん由来細胞株を用いて、腫瘍細胞への細菌侵入試験を行う。細菌は、微生物叢解析で同定された細菌種、ならびに口腔内でもっとも多い細菌種であるレンサ球菌を用いる。 臨床検体および感染細胞について、モノクローナル抗体を用いた免疫沈降にてMHC class I 複合体を抽出する。得られた複合体について、加熱して抗原ペプチドとMHC class Iを分離させた後に、遠心式限外濾過フィルターを用いて抗原ペプチドの精製を行う。得られたペプチド画分について質量分析を行い、ペプチド配列を同定する。 同定したペプチドを発現する核酸ワクチンを構築し、マウスに免疫することで細菌ペプチドに反応する細胞傷害性T細胞を誘導する。脾臓からCD8+ T細胞を分離し、ELISpotアッセイにてペプチドへの応答性を検討する。さらに、マウス由来扁平上皮がん細胞に細菌を感染させ、細菌ペプチドを提示させたのち、ワクチンにて誘導したCD8+ T細胞を加え、細胞傷害性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症などの影響で、収集した検体数が当初の予定よりも少なかった。次年度に繰り越した予算は、得られた検体の微生物叢解析に使用する。
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