研究課題
近年、ヒトの腫瘍に特異的な細菌が定着しており、腫瘍の種類に応じた微生物叢を構成することが明らかとなってきた。微生物叢は、炎症や局所での免疫抑制を引き起こし、腫瘍の微小環境に影響を及ぼす。一方で、微生物叢は人種や生活習慣によって大きく変化することが知られており、日本人集団における腫瘍微生物叢の構成は不明な点が多い。本研究では、口腔扁平上皮がん患者らの微生物叢解析を行うとともに、腫瘍細胞のMHCの解析を行い、口腔がん特異的な、ネオエピトープとしての微生物叢由来ペプチドの探索を行う。さらに、ワクチンによる細胞性免疫の誘導と細胞傷害性を検証することで、新たな腫瘍治療法の可能性を探る。本計画で探索する腫瘍に提示される細菌ペプチドは、患者間で共通の腫瘍特異的抗原として機能する可能性がある。このような治療に有用な抗原は、これまではウイルス感染によって引き起こされる腫瘍でしか見つかっていなかった。腫瘍への細菌の侵入は一般的な現象である可能性が示されており、本研究は、さまざまなタイプの腫瘍に共通する腫瘍特異的抗原の決定につながりうる。今年度は臨床検体の収集を継続し、一部の検体については微生物叢解析を実施した。また、健常人の唾液検体を用いて、16S rRNA解析、メタゲノムショットガン解析、細菌シングルセルゲノム解析を実施した。その結果、健常人の口腔細菌叢において、複数の薬剤耐性遺伝子が検出された。また、微生物叢からは検出されなかった病原細菌が由来であると考えられる病原因子をコードする遺伝子も検出された。これらの結果から、従来考えられているよりも広い種間で遺伝子が水平伝播されている可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
臨床検体の収集と解析を進めている。また、健常人の唾液を用いた解析を行い、検体の収集・処理方法に加えてメタゲノム情報解析系が問題なく機能することを確認した。
本研究計画は3ヵ年で実施するものである。原則として当初の計画に沿って実行する。臨床検体の収集については、当初の予定通り3ヵ年を通じて扁平上皮がん、ならびに前がん病変として白板症患者から被験者を募る。同意が得られた被験者から、検体として唾液ならびに腫瘍組織を収集する。また微生物叢解析について、16S rRNAを解析対象とした細菌叢解析を行う。メタゲノム解析の結果を踏まえ、典型例となる症例について細菌シングルセルゲノム解析を行う。細胞株を用いた侵入試験では、代表的なヒト口腔扁平上皮がん由来細胞株を用いて、腫瘍細胞への細菌侵入試験を行う。細菌は、微生物叢解析で同定された細菌種、ならびに口腔内でもっとも多い細菌種であるレンサ球菌を用いる。臨床検体および感染細胞について、モノクローナル抗体を用いた免疫沈降にてMHC class I 複合体を抽出する。得られた複合体について、加熱して抗原ペプチドとMHC class Iを分離させた後に、遠心式限外濾過フィルターを用いて抗原ペプチドの精製を行う。得られたペプチド画分について質量分析を行い、ペプチド配列を同定する。同定したペプチドを発現する核酸ワクチンを構築し、マウスに免疫することで細菌ペプチドに反応する細胞傷害性T細胞を誘導する。脾臓からCD8+ T細胞を分離し、ELISpotアッセイにてペプチドへの応答性を検討する。さらに、マウス由来扁平上皮がん細胞に細菌を感染させ、細菌ペプチドを提示させたのち、ワクチンにて誘導したCD8+ T細胞を加え、細胞傷害性を検討する。
収集した検体について、時期の問題などにより次世代シーケンス解析を一部次年度に回すことになったため、次年度使用額が生じた。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 4件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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