研究課題
本研究は脂質異常症に伴い、そのリポ蛋白質分布パターンが、高密度リポ蛋白質(HDL)から低密度リポ蛋白質(LDL)に大きくシフトする機能性脂質Xに着目し、LDLに分布した当該脂質Xの生理活性・標的分子・生活習慣病(動脈硬化症や非アルコール性脂肪肝)の病態進行に与える影響を明らかにすべく企画された。研究開始初年度の2022年度は、ヒト血管内皮細胞由来の培養細胞(HUVEC)を用いたin vitro解析の結果、HDL分布時と比べて、LDLに分布した脂質Xは炎症惹起作用を有することを見出した。また、各種阻害剤を用いた検討により、この変化を説明可能な作用標的分子の候補を2種類見出すことに成功した。2年度目(最終年度)となる2023年度は、2022年度に見出したLDL分布型脂質Xが有する炎症惹起作用を説明可能な標的候補分子(分子Aおよび分子B)をCRISPR-Cas9システムを用いて遺伝子欠損させたマウスの作出を進めた。また、得られた遺伝子欠損マウスを用いて、高脂肪食負荷による動脈硬化症モデルマウスを作出し、病態発症・進行に各標的分子が及ぼす生理的影響を検討した。その結果、野生型マウスと比較して、分子Aおよび分子Bいずれの遺伝子欠損マウスでも、動脈硬化症の進行抑制が認められた。興味深いことに、血液中の脂質(コレステロールや中性脂肪)濃度は各マウス群間で有意な違いを認めなかったことから、脂質の体内レベル変動とは異なる機序で、分子Aおよび分子Bが動脈硬化症の増悪に関わることが示唆された。本研究で行った一連のin vitroおよびin vivo実験により、LDL分布型脂質Xは分子Aおよび分子Bを介して、炎症反応を惹起し、動脈硬化症の増悪に関わる可能性が見出された。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
Nutrients
巻: 15 ページ: 998~998
10.3390/nu15040998