研究実績の概要 |
ヒト大腸上皮細胞を用いた検討により、カドミウムはtmRT1 mRNAの発現を減少させることでその蛋白質量の低下に関与することを明らかにしている。しかし、転写阻害剤の存在下においても、tmRT1 mRNAの発現はカドミウム処理によって経時的に減少した。また、tmRT1遺伝子プロモーターはメチル化されていたが、メチル化阻害剤の前処理はカドミウムによるtmRT1 mRNAの発現減少に影響を与えなかった。この減少はヒストン脱アセチル化阻害剤で前処理しても依然として認められたことから、カドミウムはエピジェネティックな発現制御に影響を与えることなく、tmRT1 mRNAの発現を減少させていることが明らかになった。マウスに塩化カドミウム含有水(10,50ppm)を8週間自由に飲水させた結果、肛門側組織ではtmRT1 mRNAの発現が曝露濃度に依存して減少傾向を示した。一方、盲腸側組織では、定常時にその発現が低くカドミウムの影響も認められなかった。マウスの糞便を用いて16S rDNAシークエンシングを行った結果、カドミウムは腸内細菌叢の組成には大きな変化を与えず、Dubosiella属の細菌のみが顕著に減少した。Dubosiella newyorkensisはTreg/Th17応答のバランスを調整して粘膜バリア傷害の改善などに関与するが、tmRT1 KOマウスにおいてもDubosiella属の細菌が減少していた。また、tmRT1 KOマウスの直腸では、上皮再生機構のWnt/β-cateninシグナル系に関わるWnt8b mRNAの発現が消失している一方、β-cateninの過剰発現やその下流因子Lgr5の発現増加が認められた。以上のことから、カドミウムはtmRT1の発現減少を介して腸管での上皮再生機構や腸内細菌叢のバランスを撹乱させることで潰瘍性大腸炎の発症や増悪に関わることが示唆された。
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