研究課題/領域番号 |
22K19657
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
堀 里子 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 教授 (70313145)
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研究分担者 |
舟越 亮寛 亀田医療大学, 総合研究所, 客員研究員 (10805584)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | インシデント / 深層学習 / リスク管理 / 医療安全 / 自然言語処理 |
研究実績の概要 |
医療施設における患者安全の実現には網羅的インシデント分析に基づくリスク管理の最適化が重要である.しかし,インシデント分析は報告者の非定型文章に基づき,インシデントの複雑な発生プロセスや要因を読み解くため,多大な労力と熟達が求められる.加えて,インシデント分析に必要な情報が報告時点で漏れている場合もある.本研究では,深層学習を用いて,医療インシデント分析に特化した性能の高い自然言語処理(Natural Language Processing, NLP)モデルを構築することで,これらの課題の解決を目指している. 本研究では,これまでにインシデント報告と分析の質向上モデルの開発要件を設定することを目的として,病院における薬剤関連インシデント分析の実態と課題を全国の様々な規模の病院を対象としたアンケートにより明らかにした(全国の病院から無作為抽出した2000施設対象,414施設から回答を得た;回収率21%).インシデントレポートの作成と要因分析の実施頻度は,患者に対する影響レベルが大きいインシデントほど高かったが,その実施状況は十分ではなく,分析するための時間不足や分析者の不足が課題であることが判明した.また,公益財団法人医療機能評価機構における医療事故情報収集等事業で収集された医療事故及びヒヤリハット事例データを用いて,薬剤関連のインシデントを対象とし,各種事前学習済みNLPモデルを用いたインシデント分類器(事故発生プロセス・要因・対処・対策の各項目)の構築を進めてきた.ヒューマンエラー分析フレームワークのP-mSHELLモデルを参考に,医療従事者/患者家族/患者/管理/ソフトウェア/ハードウェア/環境/ライブウェアの 8 種の要因ラベルを設定した.これらの要因を複数ラベルを許容して付与するマルチラベル分類器を構築し,臨床実装に向けた分類器の性能向上を実現した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は,昨年の予備調査にもとづき,全国の病院から無作為抽出した2000施設を対象として薬剤関連インシデント分析の実態調査を実施し,様々な病院規模の414施設から回答を得て,薬剤のリスクマネジメントにおける課題について,インシデントレポートの作成と分析を中心に特定した.並行して,医療事故情報収集事業から得たインシデントレポートを用いて,ヒューマンエラー分析フレームワークのP-mSHELLモデルにもとづき,インシデント要因を抽出するマルチラベル分類器の構築と性能向上を実現した.さらに,研究協力施設で収集されたインシデントレポートを用いたモデル評価に着手した.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,深層学習を用いて,医療インシデント分析に特化した性能の高いNLPモデルを構築する.さらに,これまで明らかにしてきた臨床におけるインシデント分析の実態と課題にもとづき,インシデント報告の質向上モデルの開発要件を検討する.これまでに,公益財団法人医療機能評価機構における医療事故情報収集等事業で収集された医療事故及びヒヤリハット事例データを用いて,NLPを用いたインシデント非定型テキスト分析手法の開発とその性能向上に取り組んできた.今後は,協力医療機関で集積されたインシデント報告を対象として,開発したモデルの応用可能性の検討とモデルの精緻化を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は,計画していた人件費・謝金より少額で研究を順調に進行できたため,次年度使用額が生じた.次年度は,当初の予算を超えて,研究成果の発表(学会,原著論文)を見込んでおり,それらに予算を充当する計画である.
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