研究課題/領域番号 |
22K19675
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
園田 愛 宮崎大学, 医学部, 助教 (10762122)
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研究分担者 |
柿崎 英二 宮崎大学, 医学部, 准教授 (70284833)
新川 慶明 宮崎大学, 医学部, 助教 (40625836)
湯川 修弘 宮崎大学, 医学部, 教授 (30240154)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 法医学 / 死因究明 / 溺死の診断 / 壊機法 / 珪藻 |
研究実績の概要 |
法医学では,溺死を診断するために水中の微生物を指標としたプランクトン(珪藻)検査が行われている。しかし諸臓器(肺,腎臓,肝臓,骨髄など)や血液(心臓血,大腿静脈血など)などの検査試料から検出される珪藻は,様々な論文を比較するとその数や頻度に大きな違いがみられる。私たちは,その主な原因としてフラスコに由来する偽陽性検出が関与していると考えた。そこで本研究では,可能な限り偽陽性検出を引き起こさない条件下で,未使用のフラスコのみを用いて新しい高感度検査法を実施した。これまでに水中および水辺で発見された解剖例の計80例の420検体(肺160検体,腎臓80検体,肝臓77検体,血液23検体,現場水80検体)を検証した。特に今年度は高度に腐敗が進行した事例に重点をおき,さらに22例を追加し偽陽性検出の問題や真の陽性検出の意義について調査・解析した。その結果,肺以外の諸臓器については,高度に腐敗が進行した事例を含めてほとんどの事例で,たとえ腎臓や肝臓,血液から少数の珪藻を認めても,その数は非常に少なく,偽陽性との判別は難しいことが示された。また当初私たちが予想した通り,フラスコの繰り返し利用は多数の偽陽性検出を引き起こす原因として特に注意すべきであることも改めて確認された。さらに腐乱死体において,解剖中の試料採取の際に,外表に付着した珪藻が手袋や解剖刀,切り出し板などを介して検査試料に混入する可能性が考えられた。しかしこれに関しては細心の注意を払えば殆どの事例で偽陽性検出を防げることが示唆された。一方,肺や現場水の珪藻検出については得られる情報が多く,多くの事例で診断の一助として非常に効果的であった。 しかし,水域によっては珪藻の数が極端に少ない水環境もあり,その場合は肺組織でも多数の珪藻を検出できないため,その他の水棲微生物を指標とした検査法を追加する必要があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように,本研究成果から肺や現場水を検査して得られる情報は多く,多くの事例で溺死診断の一助として非常に効果的であることが強く示された。しかし一方で,腎臓や肝臓,血液の珪藻検査については,高度に腐敗した遺体の場合(高度に腐敗膨満,外表に広範に藻が叢生,腐敗により血液を全く認めない,部分的に白骨化,蚕食により気管等が損壊,胸腔や腹腔が開放性に損傷など)を含めて,多くの事例で検出される珪藻の数や種類は非常に少なく,溺水吸引を示唆する根拠として非常に厳しいことが示された。ただし,高度に腐敗した事例の中で,これまでに極端に多くの珪藻を認めた事例も2例だけ認めた。そのような事例で珪藻が検出される機序については,今後の課題として長期的なスパンで慎重にその解明に努めたい。このように本研究を実施し得られた成果によって,溺死診断において重要かつ新しい知見が得られ,今後法医実務での死因究明に役立つことから,本年度の進捗度は概ね達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究は,概ね順調に遂行できており,多くの有益な成果も得られたことから,来年度も引き続き本課題の当初の目的を達成するために研究を推進していく。検証すべき事例について,偽陽性検出を引き起こさない条件下で珪藻検査を実施し,真の珪藻数やその種類の検証を続ける。また初年度以降に得られた結果の正当性についても,次年度の結果と合わせて,引き続き総合的に分析し検証を行う。特に,高度に腐敗が進行した事例や溺死でない事例,損傷の多い事例で死後の珪藻の混入が疑われるような事例について,引き続き事例を追加して調査を続け偽陽性検出の可能性ないし原因を調査する。そして偽陽性検出の予防の方法を明確に提示すると共に,真の陽性検出についても今後データを詳細に分析し考察を加えたい。また,偽陽性検出を生じる可能性のある検査器具や洗剤類,その他の製品等について確認し調査を広げたい。さらに珪藻検査を実施しても充分な数や種類の珪藻が検出されず,溺水吸引の判断が困難であるような事例については,その他の検査を追加して実施することで診断精度を高める方法も提案したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
材料や製品等の世界的な供給不足の影響によって,研究に必要な一部の消耗品等の納品にたびたび遅れが生じた。しかし,一方で遂行できた研究自体は順調に結果が得られて予備実験や再実験等を行う回数が抑えられ,当該予算を節約できた。またキャンペーンなどの期間に合わせて購入したり,一括購入等で価格交渉にも努めた。さらに学会発表などの国内旅費(研究代表者及び研究分担者)やその他の経費については,当大学の基盤経費や寄附金などで賄うことができて当初の予算を節約できた。これらの理由から次年度使用が生じたが,これは引き続き来年度に可能な限り多くの事例の珪藻検査を実施し本研究の課題を完了するために使用する予定であり,これによって過去の事例の再検査を含めた詳細な検討が可能になる。また偽陽性検出を引き起こす可能性のあるその他の要因の解明についても,多角的に実験を展開し検証等を行いたい。年々,研究用物品費の価格が高騰し,試薬や消耗品費が通常より1-3割高くなっていることも考慮して,次年度の当該予算を有効的に活用していく。
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