研究実績の概要 |
法医実務において,死因確定は最も重要な実務の一つであり,その際客観性および正確性が求められる.冠動脈閉塞による急性心筋梗塞は突然死をきたす重篤な疾患であるが,その死因診断法は未だ確立しているとは言えない.法医学の現場では生前の情報に乏しく,かつ死因につながる病理所見を欠く突然死では死因の決定が困難な事例が少なくない.精度の高い死因究明を行うには,できるだけ多くの指標を用いることが重要であり,また各指標の独立性が高いことが望ましい.応募者は,タンパク質の複合体の形成,タンパク質の移動,細胞周期を制御することが知られているHSPが「超早期生活反応」として,その発現が極めて短時間で変化する分子であると予想し,心筋梗塞における死因判定の指標となり得る可能性を検討することを構想した. これまでの検討により,過収縮帯を認めた心筋梗塞による死亡例は21例中11例 (52.3%)であり,心筋梗塞以外の死因において過収縮帯を認めた21例中5例 (23.8%) と比べて有意差を認めないことを見出している.また,心筋梗塞を認めた群とそれ以外の群のヒト心臓試料にて,ミオグロビンに対する抗体を用いて免疫染色を行ったが,両群の間に著明な差は認められなかった.さらに,心臓への炎症細胞浸潤についても免疫染色にて解析した.好中球およびマクロファージのいずれも心筋梗塞を認めた群とそれ以外の群の間に有意な差を認めなかった. 一方,Heme oxygenase-1 (HO-1, HSP32)のタンパク発現を免疫染色により解析したところ,心筋梗塞による死亡例の心筋組織において,心筋細胞核に陽性所見を認め,心筋梗塞の有用な分子マーカーとなり得ることが判明した.
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