計画2ヶ年目(最終年度)に当たる2023年度は、昨年度に前白血病様細胞の出現を認めたETV6-RUNX1発現ヒトiPS細胞由来のテラトーマについて、変異原性を有するエチルニトロソウレア(ENU)および免疫原性を有するリポ多糖(LPS)を作用させ、白血病化を検討した。ドキシサイクリン(DOX)の飲水投与によりETV6-RUNX1の発現誘導下にてテラトーマを形成・増大させ、皮下のテラトーマ塊の位置を把握可能となった移植6週目より薬剤のテラトーマへの直接投与を開始した。コントロールマウスおよび薬剤を投与したマウスよりテラトーマを採材し、内部に含まれたヒト細胞を解析した結果、薬剤を投与したテラトーマ内部には顕著に多数のCD34を発現するCD10、CD19二重陽性B細胞が含まれており、白血病化に至る過程を誘導できた可能性が考えられた。しかし、テラトーマ周辺の造血組織への当該細胞を含むヒト細胞の浸潤は確認されず、その他も含め白血病病態の確認には至っていない。病態模擬にはより長期的にテラトーママウスを飼育することが必要と考えられた。テラトーマ小片や細胞の二次移植など長期的モニタリング手法の検討が今後の課題として挙げられた。 また、乳児白血病のモデル細胞として昨年度に樹立したKMT2A-AFF1発現ヒトiPS細胞を用いて、上記同様に検討を行った。KMT2A-AFF1の発現誘導下にて形成したテラトーマ内にはCD19陽性細胞がほとんど検出されず、ETV6-RUNX1発現細胞と比較し、より幼若な段階にてB細胞分化に障害が生じていると考えられた。これは、KMT2A-AFF1陽性乳児白血病における特徴と一致した。 以上より、転座遺伝子発現ヒトiPS細胞を用いて作製したテラトーマ形成マウスを、小児白血病評価用in vivoモデルとして活用するための道筋を得た。
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