研究課題/領域番号 |
22K19705
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
中川 嘉 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 教授 (80361351)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | 生活習慣病 |
研究実績の概要 |
CREBH欠損マウスで認められる小腸の構造異常を引き起こす要因を検討するため、腸管オルガノイド培養法を用いて、腸管幹細胞の分化・増殖能の評価をおこなった。CREBH欠損(KO)マウスから作製した腸管オルガノイドと野生型(WT)マウスから作製した腸管オルガノイドは成長過程において同等の形態を見せ、腸管幹細胞のCREBH欠損は腸管幹細胞の分化・増殖能に大きな影響を与えない可能性が示された。小腸におけるCREBHの局在をin situ hybridizationを用いて検討し、CREBH欠損の作用が大きく出る細胞種の特定を行った。その結果、CREBHは細胞死が盛んに起こる絨毛先端に多く発現することが明らかとなった。加えて、RNA seq.やChiP seq.などのオミクス解析からCREBHがアポトーシスなどの細胞死に重要な遺伝子の発現を直接制御することが見出されたことから、CREBH欠損に伴う小腸の構造異常の要因に細胞死の制御機構の破綻があると想定し、解析を進めている。 普通食を負荷したWTマウス、KOマウスの腸内細菌叢の解析を行ったところ、構成細菌に顕著な違いが認められた。KOマウスでは、生活習慣病の悪化に関連することが報告されている細菌の増加や腸内環境の改善に働くことが報告されている細菌の減少が認められた。さらに、脂肪肝を誘導する食餌である高脂肪高ショ糖食を12週間負荷したWTマウス、KOマウスの腸内細菌叢の解析では、KOマウスで腸管バリア機構の破壊に対する関与が報告されている細菌や肝炎の悪化に関与することが報告されている細菌が顕著に増加することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CREBH欠損に伴い小腸の構造変化が起こる機序を解明するため、腸管オルガノイド培養法を用いて腸管幹細胞の分化・増殖能の評価を行ったが、WTマウスとKOマウスから作製した腸管オルガノイドの形成過程において形態の変化が認められなかった。そこで、小腸におけるCREBHの局在をin situ hybridizationで検討したところ、CREBHは腸管幹細胞が存在する陰窩ではなく、吸収上皮細胞などが存在する絨毛の先端に多く発現することが明らかとなった。絨毛の先端は細胞死により細胞を除去することで、小腸の内部構造の制御に関与している。そのため、小腸の病理染色などから細胞死の評価を行っている。また、他臓器で行ったKOマウスのRNA seq.やChiP seq.の解析から細胞死の誘導に重要な遺伝子の発現をCREBHが直接制御することを見出しており、小腸におけるこの遺伝子の発現変化や細胞死への関与を評価している。 CREBH欠損に伴う小腸の構造変化や細胞内脂質代謝の変化が腸内環境に与える影響を腸内細菌叢の解析を行うことで検討した。普通食を負荷したWTマウスとKOマウスでは腸内細菌が大きく変化することが確認され、CREBH欠損によって小腸で起こる変化が腸内細菌叢に影響することが明らかとなった。特に、生活習慣病の悪化に関与することが知られている細菌の増加が認められたため、食事によって誘導される生活習慣病の病態を評価した。脂肪肝を誘導する高脂肪高ショ糖食を負荷するとKOマウスでWTマウスに比べて、脂肪肝炎の病態が顕著に悪化することを確認した。この時の腸内細菌叢を解析したところ、普通食負荷時と同様に生活習慣病の悪化に関与することが報告されている腸内細菌がKOマウスで著明に多く存在しており、CREBH欠損に伴う腸内細菌叢の変化が生活習慣病の悪化に関与することが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
CREBH欠損に伴い小腸の構造変化が起こる機序の解析をマウス生体、腸管オルガノイド培養法を用いて引き続き検討していく。腸管幹細胞の分化・増殖だけでなく、細胞死にも着目して解析する。 小腸の構造変化と小腸を構成する細胞内の代謝変化に着目して、メタボローム解析や小腸のRNA seq.とマイクロバイオーム解析を統合して検討することで、CREBH欠損によって腸内細菌叢が変化する原因を同定する。また、便や細菌のマウスへの移植実験によりCREBH欠損に伴う細菌叢の変化が生活習慣病の悪化に与える影響を評価する。
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