研究課題
本研究の目的は、運動が褐色脂肪組織のアミノ酸利用とそれに引き続く熱産生能に与える影響を解明して、その効果と同等の効果を持つ腸内細菌(プロバイオティクス)を探索し、肥満症治療への可能性を検証する事である。運動による体重減少効果の新たな分子機序を解明し、腸内細菌制御により運動を模倣する効果を再現できれば、肥満症治療に対する新たな変革をもたらす事が期待される。『運動』によるダイエット効果は、肥満で低下した褐色脂肪組織のアミノ酸代謝を改善させる事が機序の一つかを検証するため、さらに運動により増加する腸内細菌の特定のために、肥満モデルマウスにトレッドミル装置を用いた運動負荷を行った。結果は、今回の実験では運動が肥満に影響せずに、それ以上の解析は困難であった。従って、運動を再現できる候補の菌を絞り込むことはできなかった。しかし、以前に動脈硬化予防効果を持つ腸内常在細菌として報告したBacteroides vulgatusとBacteroides doreiをプロバイオティクスとして経口で肥満モデルマウスに投与すると、高脂肪食負荷による肥満を抑制することがわかり、さらに分枝鎖アミノ酸(BCAA)代謝を改善していることが判明した。Bacteroides菌投与時の、褐色脂肪細胞の代謝への影響を評価すると、血液中の変化と同様にBCAA代謝を活性化させていることがわかり、運動で起きている熱産生を再現していることが示された。当初、運動を模倣する菌を、スクリーニングで特定することから開始する方針で進めていたが、動物モデルでは仮説通りには進まなかった。一方で、別の研究で特定した菌に、期待する肥満抑制効果があることが分かり、その菌での研究を進めて機序の解明も進めることができた。
2: おおむね順調に進展している
運動を模倣する菌のスクリーニングの実験は仮説通りには進まなかったけれど、以前から研究を進めていた菌が、当初の目標とした肥満抑制作用を持つ菌であることを証明できた。 さらに、肥満抑制効果としてのアミノ酸代謝の改善作用も示すことができて、機序の一つは解明できている。 よって、研究の目的の一部は達成できている。
最終年度は、以下の実験を行う。(1)Bacteroides菌が、どのような機序で、褐色脂肪細胞のアミノ酸代謝を変化させているのかを解明する。(2)論文報告なども参考に、さらに別の「運動を模倣する菌」の特定を目指す。これらの実験により、肥満に対する新たな腸内細菌製剤(プロバイオティクス)の開発につなげる。
菌スクリーニングの動物実験で、表現型での差異が生じず、その後のメタボローム研究と菌叢解析の費用が不要であったため。 次年度の、菌のスクリーニングと特定された菌をマウスに投与する実験で、同実験が必要となるのでその経費に使用する。
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