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2023 年度 実施状況報告書

がんに起因する脳の糖鎖のリモデリングに着目した革新的がんリハビリテーション研究

研究課題

研究課題/領域番号 22K19713
研究機関九州大学

研究代表者

神野 尚三  九州大学, 医学研究院, 教授 (10325524)

研究期間 (年度) 2022-06-30 – 2025-03-31
キーワードがん / 認知機能障害 / 海馬 / オリゴデンドロサイト / ミエリン / JAK-STATシグナル伝達経路
研究実績の概要

がんに伴う認知機能障害 (Cancer-related cognitive impairment, CRCI) に関する基礎研究を推進した。本年度の研究においても、メラノーマ細胞株の移植によって担がんモデルマウスを作出し、テストバッテリーによる行動学的解析に取り組んだ。担がんマウスでは、オペラント条件づけに基づく遅延見本合わせ試験における学習機能の低下や、恐怖条件づけ試験における長期記憶の低下、強制水泳試験におけるうつ様の増加、高架式十字迷路試験における不安関連行動の増加、などが認められた。一方で、Y字迷路試験における短期記憶に異常は認められなかった。これらから、担がんモデルマウスがCRCIのモデルとして妥当性を有することが示唆された。次に、抗体アレイを用いて血中サイトカインのスクリーニングを行い、オリゴデンドロサイトとの相互作用が知られているケモカイン (CCL2, CCL8など) の血中濃度が上昇していることを見出した。オプティカルダイセクター法による定量解析の結果、海馬のオリゴデンドロサイト前駆細胞とオリゴデンドロサイトの空間分布密度が一部で低下していることが示された。このため、海馬のケモカイン受容体関連遺伝子をRT-qPCRによって解析した結果、Ccr1やCcr2、IL27raなどの発現レベルの上昇が認められた。興味深いことに、コンドロイチン硫酸糖鎖抗原 (Cspg4) の発現レベルは低下していた。また新たに、CCL2に対する中和抗体を投与する実験を行ったが、CRCIに対する十分な効果は得られなかった。このため現在は、ケモカインによって活性化されるJAK/STAT経路の阻害剤を投与する実験に取り組んでおり、予備的な実験ではCRCIの症状が部分的に改善する結果が得られている。これらの結果は、CRCIの病態基盤について基礎的な知見を与えるものである。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

メラノーマ細胞株の移植によるCRCIモデルマウスの確立に成功し、海馬におけるケモカイン受容体の発現変動を捉えることに成功している。また、ケモカインに対する中和抗体の投与実験や、JAK-STAT経路の阻害剤を用いる治療実験などに取り組み、一定の成果が得られている。

今後の研究の推進方策

実験1:CRCIモデルマウスの作出と行動テストバッテリーによる認知機能評価:既に確立しているメラノーマ細胞株 B16F1を用いるマウスに加えて、新たに乳がん細胞株E0771細胞株をC57BL/6J系統マウスの皮下組織への移植を行い、担がんモデルをマウス作出する。行動テストバッテリーによる網羅的な認知・情動機能の評価を行う。がん細胞の移植部位や移植量を調整し、CRCIとして最も妥当性が高い乳がんモデルを確立する。
実験2:脳の糖鎖のリモデリングとケモカイン・ケモカイン受容体の発現変動の探索:レクチンアレイを用いて、CRCIモデルマウスのがん組織と血液、海馬の糖鎖プロファイリングを行い、糖鎖のリモデリングを網羅的に捉える。また、ペリニューロナルネットの組織化学的検討と、RT-qPCRによる糖鎖の異常発現に関わる分子群の探索を行う。また、ケモカインアレイキットを用い、CRCIモデルマウスの血中と海馬で発現変動を示すケモカインを半網羅的に探索する。
実験3:JAK-STAT経路阻害剤による実験的治療:CRCIモデルを作出した後、CRCIモデルマウスにおいて発現変動が確認されたケモカインやケモカイン受容体によって活性化されるJAK-STAT経路の阻害剤を投与する。これらのマウスの網羅的行動解析と分子生物学的解析、組織学的解析を行い、その効果を系統的に評価する。

次年度使用額が生じた理由

消耗品費の購入が当初の予想よりも少額で済んだために次年度使用額が生じた。これらは次年度の消耗品の購入に使用する計画である。

  • 研究成果

    (11件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (9件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Altered regulation of oligodendrocytes associated with parvalbumin neurons in the ventral hippocampus underlies fear generalization in male mice2023

    • 著者名/発表者名
      Yamada Jun、Maeda Shoichiro、Tojo Miori、Hayashida Miyuki、Iinuma Kyoko M.、Jinno Shozo
    • 雑誌名

      Neuropsychopharmacology

      巻: 48 ページ: 1668~1679

    • DOI

      10.1038/s41386-023-01611-6

    • 査読あり
  • [学会発表] 抗がん剤投与による情動行動の変容と海馬のオリゴデンドロサイトの機能不全2024

    • 著者名/発表者名
      越智亮介、田中秀知、大島佑人、飯沼今日子、山田純、神野尚三
    • 学会等名
      第129回日本解剖学会全国学術集会
  • [学会発表] マウスのコカイン嗜癖行動の再燃に対するケタミンの抑制作用2024

    • 著者名/発表者名
      山田純、前田祥一朗、飯沼今日子、神野尚三
    • 学会等名
      第129回日本解剖学会全国学術集会
  • [学会発表] がん細胞株移植マウスにおける認知機能障害とJanus kinase阻害薬による実験的治療2024

    • 著者名/発表者名
      大島佑人、山田純、飯沼今日子、神野尚三
    • 学会等名
      第129回日本解剖学会全国学術集会
  • [学会発表] 恐怖記憶の汎化における海馬のペリニューロナルネットの関与2024

    • 著者名/発表者名
      中村朱里、山田純、飯沼今日子、神野尚三
    • 学会等名
      第129回日本解剖学会全国学術集会
  • [学会発表] コカイン嗜癖モデルマウスにおける海馬のオリゴデンドロサイトの機能変調2024

    • 著者名/発表者名
      野見山智樹、山田純、飯沼今日子、神野尚三
    • 学会等名
      第129回日本解剖学会全国学術集会
  • [学会発表] 研究者自身のプログラミングによる画像解析-有用性とその課題-2023

    • 著者名/発表者名
      神野尚三
    • 学会等名
      日本顕微鏡学会第33回電顕サマースクール
    • 招待講演
  • [学会発表] 現代の脳科学に基づく心身相関の新たな理解2023

    • 著者名/発表者名
      神野尚三
    • 学会等名
      第27回日本心療内科学会
    • 招待講演
  • [学会発表] Possible involvement of hippocampal neurogenesis in cocaine-seeking behavior in young and middle-aged mice2023

    • 著者名/発表者名
      Jun Yamada, Shoichiro Maeda, Kyoko Iinuma, Shozo Jinno
    • 学会等名
      第46回日本神経科学大会
  • [学会発表] Potential involvement of hippocampal oligodendrocytes in age-related decline in stress resilience2023

    • 著者名/発表者名
      Ayumi Okamura, Jun Yamada, Kyoko Iinuma, Shozo Jinno
    • 学会等名
      第46回日本神経科学大会
  • [備考] 九州大学 大学院医学研究院 神野研究室

    • URL

      https://anat.neurosci.kyushu-u.ac.jp/index.html

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公開日: 2024-12-25  

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