研究課題/領域番号 |
22K19716
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
三浦 進司 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 教授 (10342932)
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研究分担者 |
佐藤 友紀 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 助教 (30908455)
林 久由 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 准教授 (40238118)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | リポクオリティ / 小腸 / アシル基転移酵素 / リモデリング / 脂肪酸 |
研究実績の概要 |
小腸吸収上皮細胞は栄養素を選択的かつ能動的に輸送する機能を有しており、これらの機能は、膜を構成するリン脂質やタンパク質(輸送体)によって決まるため、膜リン脂質は栄養素吸収において重要な役割を担うと推測される。代表的なリン脂質であるホスファチジルコリン(PC)のsn-1位には飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸が結合しているが、脂肪酸種を決定する責任酵素は未だ同定されておらず、sn-1位の脂肪酸種が有する生理的意義の解明には至っていない。申請者らは、LPGAT1と呼ばれるアシル基転移酵素がPCのsn-1位へのstearoyl基の導入に関与することを突き止めている。小腸では1-stearoyl-PC量が全PC量の約30%を占めること、LPGAT1が小腸で高発現していることから、本研究では、LPGAT1によるPCのsn-1位へのstearoyl基の導入が小腸の栄養素吸収機能に不可欠であるかを検証した。 まず、小腸でのLPGAT1の欠損はPCのsn-1位への18:0導入に影響するか否かを検討する目的で、腸管特異的Creリコンビナーゼ過剰発現マウス(villin-Creマウス)と、申請者が保有するLPGAT1(flox/flox)マウスを交配し、腸管特異的LPGAT1欠損(腸LPGAT1-KO)マウスを作出した。組換えマウスの小腸より吸収上皮を採取して脂質抽出を行い、LC/MSを用いてリン脂質のクオリティ変化を検討し、18:0-PC量および18:0-PE量が低下することを明らかにした。 小腸でのLPGAT1の欠損が栄養素吸収に影響するか否かを検討する目的で、腸LPGAT1-KOマウスの摂食量、体重の経時変化を測定したが、対照としたLPGAT1(flox/flox)マウスとの間に有意な差異は認められなかった。次に、一定期間飼育後、一晩絶食させた腸LPGAT1-KOマウスに、単糖類、二糖類を経口投与し、これら栄養素の血中移行量を測定した。その結果、腸LPGAT1-KOマウスでは特定の二糖類の吸収が低下することが明らかになり、LPGAT1が小腸における栄養素の吸収機能に影響することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腸管特異的Creリコンビナーゼ過剰発現マウス(villin-Creマウス)と、申請者が保有するLPGAT1(flox/flox)マウスを交配し、腸管特異的LPGAT1欠損(腸LPGAT1-KO)マウスを作出し、小腸でのLPGAT1の欠損はPCのsn-1位への18:0導入に影響することを示すことができた。 腸LPGAT1-KOマウスの摂食量、体重の経時変化、糖質吸収について検討し、腸LPGAT1-KOマウスでは特定の二糖類の吸収が低下することが明らかになり、LPGAT1が小腸における栄養素の吸収機能に影響することが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
小腸でのLPGAT1の欠損がなぜ栄養素吸収に影響するかを明らかにするため、プロテオーム解析を行い、栄養素吸収に関与する輸送体タンパク質量の変化を明らかにする。また、小腸組織切片を用いて吸収上皮の構造変化を電子顕微鏡観察によって明らかにするとともに、栄養素吸収に関与する輸送体タンパク質の局在変化を、免疫蛍光染色法により明らかにする。 小腸でのLPGAT1の欠損が栄養素吸収に影響するか否かを検討する目的で、一晩絶食させた腸LPGAT1-KOマウスに、中性脂肪、アミノ酸を経口投与し、これら栄養素の糞便中への排泄量と血中移行量を測定する。これによりLPGAT1が小腸における栄養素の吸収機能に影響するか否かを明らかにする。③腸LPGAT1-KOマウスより小腸を摘出し、反転小腸標本を作製後、放射ラベルしたグルコース、脂肪酸、アミノ酸の初期取り込み速度を測定して微絨毛膜の栄養素吸収機能を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、放射ラベルした栄養素を経口投与することを想定していたが、非放射性物質で実験結果が明らかになり、放射ラベルを用いた実験実施が次年度にずれたため。
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