研究課題/領域番号 |
22K19719
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
森 司 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (60241379)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | Rana pirica / 筋肉 / ゲノム解析 / Xenopus / 捕食ストレス / ヤゴ飼育水 |
研究実績の概要 |
令和4年度は3つの方向から本研究を展開した。①ヤゴ体内から放出される筋肉増強物質の同定。②ヤゴを飼育した水でRana piricaの筋肉が増強されるため、そのメカニズムの解析の為にRana pirica遺伝子の全ゲノム解析から筋肉遺伝子の同定を行う。③捕食者(サンショウウオ幼生)が存在する事でXenopus laevis幼生の尾部の筋肉の伸長が見られていたので、Xenopus tropicalis幼生でも同様の実験を行い、筋肉の変化と恐怖刺激を感じ取る脳内の代謝状況を調べた。これらの実験の結果、①ヤゴ水に含まれる液体、餌として与えているアカムシの体液、そして飼育している飼育水をLC-MS/MSをかけて分析し、ヤゴ水にだけ特異的に存在している分子の探索を行った。再現性のある結果として15個の分子を検出した。その為、中でも特に強いシグナルを持った4つの分子の分離精製とバイオアッセイを行いたい。②に関してはPacbioでシークエンスを実施し、合計69Gbaseを取得した。N50を計測したところ0.8Gbaseであった。同じRana属であるRana temporaria (Anura: Ranidae)でゲノム配列が解析されている為、これを鋳型にしてゲノムを並べた。しかし、このR. temporaria は染色体が13本であるため12本のR.piricaとは染色体数が違うため、まだゲノム配列は完成していない状況である。③に関してはX. tropicalis幼生は特異的な尾部の伸長は示さないが、様々な部位がランダムに変化し、脳内でヘモグロビンが増加する事を見出した。驚くことに、このヘモグロビンは酸素と結合した酸素ヘモグロビンであり、その酸素ヘモグロビンが後脳や中脳に集まっていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①ヤゴ体内から放出される筋肉増強物質の同定に関してはアッセイが必要である。しかし実際に筋肉の増強を引き起こす為には10日以上の日数が必要な為、ヤゴ水とRana pirica幼生の特異的な応答として、行動抑制が見られる。その為、このRana pirica幼生の行動抑制を惹起する物質がRana pirica幼生の筋肉増強と関連していると推測し、行動抑制の惹起を目印にこの物質の精製を試みていた。昨年、ヤゴ水をイオン交換樹脂に吸着させ、NaClで溶出させた。その物質の活性をRana pirica幼生の行動抑制の有無でアッセイした。しかし、Rana piricaが飼育中に死滅してしまった為、この行動アッセイと並行した物質精製が出来なかった。その為、LC-MS/MSによりヤゴ水特異的物質の検索を行なった事でヤゴ水特異的物質の検索ができた。
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今後の研究の推進方策 |
①ヤゴ体内から放出される筋肉増強物質の同定に関しては、今年はヤゴ水などから昨年確認したヤゴ特異的各分をC-18カラムによるHPLCにより分取し、Rana pirica 幼生の行動から分取画分のアッセイを行い、完全に物質同定に至らなくてもどの画分に目的分子が存在しているのかを明らかにする。 ②Rana pirica遺伝子の全ゲノム解析からヤゴ水により惹起されるRana piricaの筋肉遺伝子の研究に関しては、オプティカルゲノムマッピングによりRana piricaのゲノム解析制度を上げる。現在はN50が0.8Gbaseである為、これを1.0Gbase以上にまで上げる予定である。また既に知られている筋肉関連遺伝子を網羅的に調べ、Rana piricaのゲノム上にマッピングし、調節領域の検索を行う。更に、予算が有ればRNAseqを行い、どの筋肉関連遺伝子が増加してくるのかを探り、その遺伝子のゲノム上の位置を探る。③捕食者(サンショウウオ幼生)の存在ではXenopus tropicalis幼生の尾部筋肉の伸長は示されなかったが、脳内の生理代謝の変化が明らかになった。その為、脳のどの部位の代謝がどの様に変化するのかをホールマウントインサイチュウなどで明らかにする。
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