研究課題/領域番号 |
22K19736
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
牛山 潤一 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 教授 (60407137)
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研究分担者 |
野崎 大地 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 教授 (70360683)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 伸張反射 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,アスリートの上肢運動における潜在的な運動修正能力に着目し,運動を妨害する外乱(機械的摂動)に対して,筋の長さ変化に対する反射応答である伸張反射をどのように利用しながら,競技特異的な上肢操作を実現しているかを究明することである.初年度である2022年度は,ロボットマニピュランダムKINARMを用いて,力場環境における上肢姿勢保持課題を構築し,ランダムなタイミングで左右どちらかに機械的摂動を与え,摂動肢/非摂動肢にどのような伸張反射応答が検出されるかを表面筋電図から評価する実験系を構築した.この実験系を用いて,一般健常者15名,アスリート群の代表として体操競技者15名を対象に積み上げた.その結果,一般健常者においてはいかなる課題においても摂動肢のみに伸張反射応答が出現した.それに対して体操競技者では,次に左右のどちらが摂動を受けるかが自明な場合においては摂動肢のみに伸張反射応答が出現するのに対して,左右のどちらが摂動を受けるかが分からないランダム条件においては摂動肢・非摂動肢の双方に伸張反射応答が出現することが明らかとなった.とくにこうした傾向は,経皮質成分と呼ばれる比較的潜時の長い伸張反射成分に顕著であったことから,アスリートの脳・神経系では,左右の皮質間の連携により,「反射」という低次のシステムから競技に特化した適応が生じている可能性が示唆された.また,現在は伸張反射応答の調整への皮質活動の関与をより因果的に検証すべく,経頭蓋磁気刺激を用いた実験系の構築に着手している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2023年度以降開始する予定であった経頭蓋磁気刺激実験のシステム構築・予備的検討を2022年度内から開始できたことは非常に大きい.従来の想定以上のスピードで研究を推進することができている.さらに,同じ運動/同じ刺激でも,教示の出し方や直前にどんな課題をしていたかに依存して伸張反射応答が異なるという2022年度の成果は,研究立案時には想定していなかったものであり,体操競技者特有の柔軟な上肢操作能の原理を説明しえる重要な知見を得たと考えている.まだまだ結論を出せる段階ではないものの,総じて当初の計画以上に進展していると評価できる. 成果としては,伸張反射のデータまでをとりまとめたものを国際学会において発表し(Sugino H & Ushiyama J, Poster Presentation, The International Society of Electrophysiology & Kinesiology 2022),とくに筋電図研究の世界的研究者たちと議論を重ねることができた.
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今後の研究の推進方策 |
2023年度に推進すべき課題は大きくふたつある.ひとつめは,現在プロトコルの作成段階にある経頭蓋磁気刺激を用いた実験系を確立し,計測手技を熟練させたのち,伸張反射応答の調整への皮質活動の関与をより因果的に検証することである.機械的摂動が与えられるタイミングで皮質における情報処理を妨害することによって,左右の伸張反射応答がどのように修飾されるのかを調査する.ふたつめは,体操競技者にみられる一般健常者とは異なる伸張反射の文脈依存的な変調は本当に体操競技者特有のものなのか,他のアスリートにおいては出現しないのかを横断的に検討していく.具体的には,上肢の使い方が体操競技者とは大きく異なるアスリート群を選定し,第3・第4のアスリート群としてデータ収集を実施する.競技ごとに異なる上肢の使い方が,伸張反射という低次なシステムの機能的な特徴をどのように変調させるのか,検証を重ねる.このような観点からデータを積み上げ, 2023年8月に予定されている第17回Motor Control研究会,第46回日本神経科学大会,2023年11月にワシントンDCにて開催予定のNeuroscience 2023などにて当該領域の専門家たちとディスカッションを重ね,学術論文の執筆に向かっていきたい.
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