急性期治療を除くと、リハビリテーション(以下、リハ)以外に有効な脳卒中治療法はない。しかし、リハも回復期(亜急性期)を過ぎると効果が減少し、維持期(慢性期)でのリハによる機能回復は困難である。生後の臨界期に、アストロサイトはシナプス形成と刈り込みを制御し回路再編に関与する。脳卒中後、アストロサイトは反応性アストロサイトへと変化し、臨界期ほどではないが、回復期の神経回路再編とリハによる機能回復に関与していると考えられる。しかし、慢性期には反応性アストロサイトによる神経回路再編はほとんど起こらず、そのことがリハに応答せず、機能回復が困難な状態を作り出していると考えられる。そこで本研究では、脳梗塞後の反応性アストロサイトの制御により、慢性期の脳内環境をリハに応答する状態に変えることが可能かを検討し、慢性期脳卒中の治療法開発の基盤を構築することを目的とする。今年度は、RiboTag法を用いて、生後臨界期のアストロサイト(生後7日、12日の大脳皮質由来)、成体のアストロサイト(生後10週の大脳皮質来)、回復期反応性アストロサイト(損傷後7日、14日の梗塞巣周囲由来)、慢性期反応性アストロサイト(損傷後21日の梗塞巣周囲由来)の網羅的遺伝子発現解析を行い、脳梗塞後の反応性アストロサイトを臨界期アストロサイトへと転換するのに必要な候補分子を抽出した。今後、その分子を用いて、慢性期の脳内環境を臨界期のような神経可塑性が高く神経回路再編が起きる脳内環境に変えて、慢性期でもリハによる機能回復が可能かを検討していく予定である。
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