研究課題/領域番号 |
22K19746
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
原 正之 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (00596497)
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研究分担者 |
菅田 陽怜 大分大学, 福祉健康科学部, 准教授 (30721500)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 摂食・嚥下 / ロボティクス / ハプティクス / 非接触センシング / 定量化 |
研究実績の概要 |
近年の誤嚥性肺炎による死亡率増加に伴って重要度が高まる摂食・嚥下リハビリテーションに対して,本研究課題は工学を中心として基礎理学療法学と認知科学を融合させた学際研究により,摂食・嚥下機能の定量的評価を可能にする新しい技術の創出に挑戦するものである.2022年度の研究では,主として非接触かつ非侵襲/無被曝で健常者の嚥下状態を身体の外部から計測する方法ついて検討を行った.
具体的には,工学分野でよく用いられる3次元レーザ変位計(本研究では超高速インラインプロファイル測定器を使用)を用いて,少量の水を嚥下した際の喉仏(喉頭隆起)の上下運動,すなわち喉頭挙上を身体外部から非接触で計測することを試みた.3次元レーザ変位計を組み込んで構築した実験システムを用いて,健常者数名を対象として水飲みテストを参考にした予備実験を実施した結果,計測した喉のプロファイル(形状)について各時刻において最も高い点(すなわち喉仏の頂点)を抽出して追跡することで,嚥下時の喉頭挙上を非接触かつ定量的に計測できる可能性を示した.また,嚥下前の定常状態において喉仏が存在する位置に着目すると,その位置における高さ変化の時刻歴応答が嚥下造影検査(VF)を用いた先行研究などで報告される喉頭挙上のプロファイルに酷似することを発見し,1次元レーザ変位計などのより安価なセンサでも喉頭挙上を非接触で推定できる可能性を示唆することができた.さらには,喉との物理的接触を伴って嚥下状態を定量的にセンシングする方法についても検討し,試作システムの構想を練った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では,「課題1:接触型嚥下状態センシング技術の開発」,「課題2:非接触型嚥下状態センシング技術の開発」,「課題3:認知的影響を考慮した摂食・嚥下機能評価方法の創成」の3つの研究を計画している.
2022年度は,研究計画書に記載したスケジュールに従って嚥下状態センシング技術の開発に主眼を置き,特に非接触で嚥下状態を身体外部から定量的に計測する方法(課題2)についての検討を行った.これまでの研究では,3次元レーザ変位計を用いて喉の形状を計測することに成功しており,水を少量嚥下した際の喉仏の頂点の位置を追跡することで喉頭挙上を身体外部から定量的に計測できることを確認した.また新たな試みとして,嚥下前の定常状態における喉仏の位置に着目し,嚥下時におけるその位置の高さ変化から喉頭挙上を推定する手法を提案するとともに,先行研究で報告された喉頭挙上のプロファイルとよく一致することを実験的に示すことができた.さらには,接触型嚥下状態センシング技術の開発(課題1)についても試作システムの構想を練っており,初年度からほぼ計画通りに課題1と課題2を進めることができた.
以上のことから,全体として研究計画に従っておおむね順調に進展しているものと考える.
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の研究では,引き続き課題1と課題2を主として推進することを計画し,当面は3次元レーザ変位計を用いた非接触型嚥下状態センシング技術の開発に主眼を置くことを考える.2022年度に行った予備実験により,嚥下状態の非接触計測に対する3次元レーザ変位計の有効性・可能性は確認できたが,計測結果に個人差以外に起因するばらつきやプロファイルの歪みが生じることがあった.研究参加者ができるだけ自然に水を嚥下できるようにするために,予備実験では背筋を伸ばして真正面を注視する以外の指示を与えなかったが,嚥下時に頭や首などにおいて無意識に行われる微小な動作が見られ,これが計測結果に無視できない影響を与えたものと考える.そこで2023年度の研究では,研究参加者の頭部(額)を固定するための専用台を作製して,実験条件を研究参加者間で統一化することを考える.これにより,3次元レーザ変位計を用いた喉頭挙上計測のさらなる精度向上を図るとともに,非接触型嚥下状態センシング技術の確立を目指す.
また,接触型嚥下状態センシング技術の開発についても,2022年度に検討した構想を基に実験システムとして具体化することを試みる.試作するシステムを用いて実際に嚥下状態の計測を行い,3次元レーザ変位計を用いた非接触計測の結果やVFを用いた先行研究の知見と比較を行うことで,その妥当性について検証することを予定する.さらには,認知的影響を考慮した嚥下実験に関する実験方法や実験プロトコルの策定なども行い,2024年度に本格的に推進する予定の課題3(認知的影響を考慮した摂食・嚥下機能評価方法の創成)に備える.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者(菅田陽怜准教授,大分大学)との有機的な連携を密にするために,2022年度は所属機関に双方が出向いて課題1と課題2についての打ち合わせを行うことを予定していた.しかしながら,昨年度,研究分担者が国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))に採択されて2022年9月末からアメリカ国立衛生研究所で在外研究を開始したため,2022年度に計上していた出張旅費を全く使用することができなかった.また昨今の半導体不足により,接触型嚥下状態センシングシステムの開発に必要な入出力装置(データ集録機器)の購入も遅れているため次年度使用額が生じることとなった.
そこで2023年度は,研究分担者が帰国する9月以降に出張を複数回行って連携を強化するとともに,現在発注手配を行っている入出力装置の購入などを行い,旅費および物品費の適切な使用に努める.
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