研究課題
研究代表者らはこれまでに、複数の核内受容体ファミリーメンバーが脳出血治療の新たな分子標的となる可能性を見出した他、脳出血発症前の継続的な運動習慣が発症後の予後を改善することも報告している。本研究では核内受容体のうちNurr1、レチノイン酸受容体 (RAR) およびビタミンD受容体 (VDR) に焦点を当て、脳出血の発症前および発症後慢性期において運動負荷・リハビリが核内受容体シグナル系に及ぼす影響を明らかにするとともに、核内受容体リガンドやその前駆体となる栄養素の投与・補給が運動負荷・リハビリの予後改善効果を増強するか検証する。これらの検討を通じて、最小限の運動負荷で最大の回復効果をもたらす薬物/栄養補充療法の提唱を目指す。今年度の研究では、運動負荷・リハビリとの併用効果を検証する上での前提となる核内受容体リガンドの単独での効果に関する知見の集積を主眼とした。クロロキンからの構造展開によって近年同定された新規Nurr1リガンドを用いて検討を行った結果、出血誘発3時間後から24時間間隔で計3回投与する条件下において、新規Nurr1リガンドはマウス脳出血モデルにおける運動機能障害を有意に改善するとともに、軽度の神経細胞保護効果およびミクログリア活性化抑制効果を示すことが明らかになった。一方これまでに、同様の投与条件下でビタミンA(パルミチン酸レチニル)が脳出血病態を改善することを以前に明らかにしていることから、今年度はビタミンAの投与を出血誘発前の3日間のみ行った場合について検討を行ったが、当該投与条件(前投与のみ)においては運動機能と脳組織病理変化のいずれについても著明な効果は認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
初年度となる今年度は、本研究での焦点となる核内受容体であるNurr1のリガンドおよびRARのリガンド前駆体(ビタミンA)について、脳出血病態に対する治療・予防効果に関する基礎知見を集積できた。特に今年度作用の検討を行った新規Nurr1リガンドは、化学系の研究試薬として広く市販されている化合物であるが、脳出血に限らず動物個体において薬理効果等を検証した報告がこれまで皆無であることから、新規性の高い知見が得られたと言える。また、本研究のもう一つの主題である運動負荷・リハビリについては、マウスへの長期間のトレッドミル運動負荷が脳および末梢組織における核内受容体シグナル関連分子群の動態に及ぼす影響について解析を進めているところであり、次年度以降の研究において関連知見を集積するための基礎固めが出来つつある。
1)健常マウスへの運動負荷や脳出血誘発後のマウスのリハビリが、核内受容体関連分子の脳および末梢における発現量に及ぼす影響について検証を進める。Nurr1関連では脳・骨格筋・血球系細胞におけるNurr1・シクロオキシゲナーゼ・プロスタグランジンE合成酵素の発現量等、RAR関連ではRARの各サブタイプや全トランスレチノイン酸とその合成酵素、VDR関連ではVDR、活性型ビタミンD3とその合成酵素の脳・骨格筋・血液・肝臓・腎臓における発現量・含量を対象とする。2)核内受容体(Nurr1、RAR、VDR)を刺激する化合物を脳出血誘発前の運動負荷、あるいは脳出血後慢性期のリハビリに合わせて連日投与し、運動機能障害の軽減効果が増強されるか検討する。マウスの運動機能の評価には、標準化された四肢随意運動試験を主に用いる。また効果のみられた条件下で、機能回復と関連する組織学的・生化学的指標の変動を検証する。組織学的指標については、免疫組織化学により血腫内の神経細胞数、軸索線維束の構造と輸送機能の回復の程度、血腫周縁部のグリア細胞の活性化状態、血腫内と周縁部の血管新生の程度を解析する。生化学的指標については脳組織内の炎症性/抗炎症性サイトカインおよび血中の細胞増殖因子・血管新生促進因子の量的変化を解析する。
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