研究課題
超高齢社会を迎えたわが国においては、介護ニーズや医療費の増加が社会問題となっており、医療介入前の予防的な老化制御法開発が強く求められる。マイトファジーは損傷したミトコンドリアを選択的に除去してミトコンドリアの品質を維持するしくみであり、加齢に伴うマイトファジー活性の低下は細胞や個体の老化の一因になると考えられている。よって、効果的にミトコンドリア品質を維持・向上させるための手法が開発されれば、ヒトにも外挿可能な老化制御の戦略となりうる。他方、ミトコンドリア品質を生体内でリアルタイム計測することは、技術的にも困難であり、いつ(発達期/成熟期/老齢期)どこで(どの器官・組織や細胞で)ミトコンドリアの品質を維持・向上させることが抗老化に寄与するのかについては未だ明らかではない。本研究では、ミトコンドリア品質を時空間的に制御・可視化するための線虫モデル評価系を構築し、老化との因果関係を解くことを目的とする。代表者らの共同研究グループが開発した蛍光ナノダイヤモンドを用いたin vivo局所熱測定技術を適用して、生体内のミトコンドリアの発熱を、ナノスケールの分解能でリアルタイムに捉える新たなモデル系を確立する。当該年度は線虫個体の各組織の局所熱測定を行うためのデバイスや測定技術開発を行った。また蛍光ナノダイヤモンドを個体の細胞に効率よく導入するための手法を検討した。
3: やや遅れている
線虫個体の各組織の局所熱測定を行うために技術開発は予定通りに進行した。線虫の頭部と尾部など離れた位置での同時局所温度測定が行えるようになりつつある。一方、蛍光ナノダイヤモンドを個体の細胞に効率よく導入するための手法を検討が予定より遅れている。蛍光ナノダイヤモンドは高価であるため、類似する安価なマテリアルを用いた検討を並行して実施することにより効率化をはかっている。
今後は以下の計画により研究を推進する。まず、ミトコンドリア損傷性蛍光タンパク質KillerRedを利用して、筋組織や神経細胞、消化器など特定の組織・細胞または特定の時期に損傷ミトコンドリアを誘導するモデル線虫を作製して、分子遺伝学によるミトコンドリア品質の時空間的制御を可能にする。次に、蛍光ナノダイヤモンドを用いた生体局所熱測定を実施し、ミトコンドリアの活性を局所熱として定量できるか否かを検証して、実験系のバリデーションを行う。さらに、マイトファジー活性化による寿命延伸や筋肉増強作用を有することが示されている化合物(ウロリチンAなど)を線虫に投与して、Keima-Redによりマイトファジー活性を可視化するとともに全身温度分布を測定し、マイトファイジーと発熱量の相関を調べる。
蛍光ナノダイヤモンドを動物個体の細胞内に効率よく導入する手法の検討にやや遅れが生じたこと、また蛍光ナノダイヤモンドを代替する安価なマテリアルの使用が予定よりも増加したことから、次年度使用額が生じた。次年度には計画の遅れを解消するべく、蛍光ナノダイヤモンドを用いた実験を多く実施するために、当該研究費を使用する予定である。
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Lab on a Chip
巻: 22 ページ: 2519-2530
10.1039/d2lc00112h.