研究課題/領域番号 |
22K19783
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
前田 忠彦 立命館大学, 情報理工学部, 教授 (40351324)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | ウエアラブルアンテナ / 導電性繊維 / 人体近傍 / 共平面給電 / 電磁結合給電 / マイクロストリップアンテナ / 刺繍構造 / パッチアンテナ |
研究実績の概要 |
「アンテナ素子の衣類同化技術」とは,衣類に求められる収縮性・柔軟性を損なわず,導電性であるアンテナ素子を衣類に同化埋設する要素技術であり,本萌芽研究の主題と位置づけられる.研究初年度である2022年度の研究では,衣類に求められる収縮性・柔軟性を維持するための検討として,後方放射の少ないパッチアンテナのアンテナ放射素子刺繍構造に関する研究を遂行した.具体的には,給電方式として,1)共平面給電型マイクロストリップパッチアンテナ、および2)電磁結合給電型マイクロストリップパッチアンテナの放射素子を導電性繊維で刺繍形成する場合の刺繍構造検討を進めた. まず,1)導電性繊維で構成された共平面給電型マイクロストリップパッチアンテナでは,共平面給電用伝送線路軸方向とこれに直交する方向の刺繍密度に注目し研究を進めた.アンテナの放射特性と刺繍構造の関係を明らかにするために,異なる刺繍構造を持つ放射素子を試作し,アンテナ電気特性について実験的評価を行った. その研究課程で, 単一方向に刺繍形成する構造(針数: 6442) に対し, その半分の刺繍密度で直交刺繍する構造(針数: 6420)を提案した.また,この提案構造の基本電気特性と電気特性の安定性に関する初期評価を実施した. 一方,2)電磁結合給電型マイクロストリップパッチアンテナでは,高密度刺繍モデルを出発点として,放射素子を導電性繊維で刺繍形成する場合の刺繍構造検討を進めた.その結果,高密度刺繍モデルと比較して,刺繍量を約90%削減した刺繍構造を提案し,その電気特性の初期評価を実施した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
共平面給電型放射素子刺繍構造研究では,導電性繊維で構成された共平面給電マイクロストリップパッチアンテナの異なる刺繍構造が電気的特性の再現性に与える影響を把握するための実験的検討を行った. 試作したアンテナの測定結果比較から, 直交刺繍を設けた刺繍構造は,単一方向刺繍構造に対して, 電気特性のばらつきが少ないことが明らかとなった.さらに, 直交刺繍構造は単一方向刺繍構造に比べて,約1.7 dB 程度高い伝送特性を示すことを確認した. 以上の実験結果は,単一方向の刺繍構造に対し,刺繍密度を半分としても直交刺繍する提案刺繍構造の有効性を示している. 一方,電磁結合給電型の放射素子刺繍構造研究では,電磁結合給電型マイクロストリップアンテナに適用するための刺繍量削減型放射素子構造を検討した.面状構造が基本である当該アンテナを格子状に導電性繊維で形成するという基本構造条件の下で実験的評価を進めた.具体的には,直交する格子形状の構造パラメータを変化させることで, 格子間隔を変更した刺繍構造が,アンテナ特性に与える影響を実験的に評価した. また,共振周波数に注目した検討では,放射素子X 方向(電磁結合用伝送線路の軸方向と直交する方向)の格子間隔を変化させた場合に,2.0 mm 間隔ごとの格子間隔変化が共振周波数に与える影響が,約100 MHz となる実験結果を取得した.これに対し, Y 方向格子間隔は共振周波数に与える影響が少ないことが実験的に確認された. 以上の実験結果を総合的に分析することで, X 方向格子間隔を変更した場合に,所望設計周波数でアンテナが共振するために必要な構造パラメータ条件を,実験式として示した.
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今後の研究の推進方策 |
まず,2022年度に提案した刺繍構造に対して、電気特性の再現性と経年経過による安定性の評価を進める.具体的には,複数サンプルの電気特性を経年経過を踏まえて継続的に評価することで,年次的な特性変化を把握してゆく.この研究過程で提案刺繍構造が放射効率の向上につながる構造上の原因分析を行う.さらに,「端末所持を意識させないネットワーク構築」をモチーフとし,フレキシブル・コンフォーマルなアンテナ形成空間を提供することを目的として,刺繍形成された放射素子の形状変化がアンテナの電気特性に与える影響の評価を進める.特に刺繍構造と放射素子上の電流分布の関係を分析することで,刺繍構造が放射効率に与えるメカニズムの分析につなげてゆく.また,共振周波数と構造パラメータを関連付ける実験式の入力パラメータを増加させることで実験式の精度を高める手法について検討する. 2022年度に実験的に確認された複数の放射素子の電気特性を,計算により把握することを目的として,シミュレーションの適用領域について検討する. 具体的な手法としては,導電率や寸法などのパラメータを変化させ,計算上で実験結果を有効に模擬できるシミュレーション条件と,その適用可能領域について分析する. この研究過程では,1)共平面給電方式、2)電磁結合給電方式、および3)広帯域型放射素子のシミュレーション条件に注目した検討を進める.また,マイクロストリップアンテナ用地板の刺繍構造について,刺繍量削減に注目した検討を進める.特に,地板の電流分布を計算で算出し,面的損失電力分布と放射効率との関係を分析する.これにより,地板の刺繍方向ごとの刺繍密度変化が,アンテナ特性に与える影響,および刺繍量低減が放射特性に与える影響について,物理的モデルの構築を目指した検討を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は,挑戦的萌芽課題の採択決定時期が,年度開始の4月ではなく,年度当初の予算充当計画に組み込むことが出来なかった点と,事前に予見しにくい測定機材の故障修理に備えておく必要があったための2点である.2023年度および2024年度では,全体予算を把握しつつ,計画的に予算執行を進める.具体的には実験のための消耗品,サンプルや測定用治具試作のための機材や材料・工具および旅費などに充当する.なお、測定機材の不具合修理については発生時期を予見することは困難であることと,高周波機材の修理費は高額であることから,これに備えるために、一定額は再度2024年度に繰り延べする予定である.
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