研究課題/領域番号 |
22K19785
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小谷 潔 東京大学, 先端科学技術研究センター, 准教授 (00372409)
|
研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
|
キーワード | 時間遅れ力学系 / 非線形システム |
研究実績の概要 |
脳における神経細胞ネットワークや人工ニューラルネットワークの例を見るまでもなく,多体相互作用は情報処理に重要な役割を果たしている.2022年度においては,非線形力学系における複雑相互作用を活用した学習器の基盤として,膜電位およびシナプスコンダクタンスを力学変数に持つRecurrent Neural Networkのシステム構築と学習を行った.さらに,レーザ光に遅延フィードバックを導入した系のダイナミクスについて数理解析を行った.以下にそれぞれについて述べる. Recurrent Neural Networkの学習には多くの場合,Backpropagation Through Timeを用いて相互作用を最適化することになるが,その数理的な複雑さのために簡略化された数理モデルを用いることが多い.ここでは神経細胞の数理モデルにみられる膜電位およびシナプスコンダクタンスを力学変数に持つSpiking Neural Networkを構築し,そのRecurrent Networkに対してBackpropagation Through Timeによる学習器を構成した.学習が適切に行われていることを確認した上で,相互作用に伴うコンダクタンスの減衰時定数が学習に果たす役割を評価し,神経科学で知られているシナプスコンダクタンスのダイナミクスとの対応を議論した. 次に,レーザ光に遅延フィードバックを導入し不安定化した系の数理モデルの解析を行った.特に,ダイナミクスに関わる線形作用素を導出し,随伴固有関数およびFloquet随伴固有関数を導出した.これらの鍵となる関数を活用し,弱い外力,強い外力に対する応答と安定性を評価することで,時間遅れに誘起される複雑ダイナミクスの数理解析法とした.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
提案した学習器を用いた学習の研究に一定の進展がみられ,また学習器の物理実装に期待がかかるレーザ光に遅延フィードバックを導入した系の解析についても,従来は行われてこなかったFloquet理論に根差した解析を推進できたため.
|
今後の研究の推進方策 |
複雑相互作用における学習を深く理解するために,今年度構築した基盤および解析技術を推進し,非線形要素と相互作用の俯瞰的な解析を行っていく.具体的な学習器および学習タスクにおける成績向上を果たすとともに,「遅延相互作用が創発する知能」についての一定レベルでの知見や設計ノウハウを抽出し成熟していくことを目指していく.
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は数理モデルを活用した理論研究に注力し,その結果として新たな学習器の提案と学習能力の評価などを推進することができた.次年度は今年度の基盤の上に高速計算などパフォーマンスを向上させるための研究使途に助成金を使用することを計画している.
|