研究課題/領域番号 |
22K19791
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研究機関 | 麗澤大学 |
研究代表者 |
大岡 昌博 麗澤大学, 全学, 教授 (50233044)
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研究分担者 |
小村 啓 九州工業大学, 大学院工学研究院, 助教 (00881096)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | Gestalt / 統一理論 / 触覚 / 温・痛覚 / バーチャルリアリティー |
研究実績の概要 |
Gestaltの組み合わせによって本物の刺激からかけ離れた刺激であるにもかかわらず本物を感じさせるための新しい触覚のGestalt理論を構築することを目指す.本理論が完成すれば,触覚のVRだけでなく触覚を自由に操作することにより痛みや痒みを緩和することも期待できる.そこで,滑らかさが生じるベルベット錯触と温度の錯覚であるサーマルグリッド錯覚を組み合わせて,滑らかさ-ざらざら軸とあたたかさ-冷たさ軸の二次元触覚平面で任意の感覚を表示する触覚ディスプレイを開発する.このディスプレイを用いて、融合錯覚を生起するためのGestalt要因を抽出して,新しい要因を引数とする触覚モデルを定式化する. 当該年度では,前年度に引き続き温度制御可能なVHI錯触のディスプレイ装置を用いて一連の心理物理実験を実施して,ベルベット錯触に対するサーマルグリル錯覚の影響を調査した.その際に,二本の線間距離の条件を三種類設定して,線間距離の変化が両錯覚の融合に与える影響も調査した. 昨年度の検討では,棒の温度の組み合わせ変化が触覚のGestaltの生起に与える効果は限定的であることが示されたが,当該年度の調査によりさらに一歩進んでベルベット錯触はサーマルグリル錯覚によって影響されないほど強固に生起するものである可能性が示唆された.また,触覚と温度感覚の組み合わせのように異なるモーダルの組み合わせの効果を検討する際に参考とするために運動錯覚と視覚フィードバックの組み合わせの検討も併せ行い,視覚フィードバックは運動錯覚を阻害しないということもおおよそ検討をつけた. 最後に,これまでの実験結果を総括して,触覚のGestaltの定式化についての検討も継続して進めた.選定するパラメータや仮定するモデルの組み合わせを種々変更してシミュレーションを実施して上記の現象を説明しうる理論の模索を進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように,当該年度では,研究目的達成のためにキーとなる温度制御可能なVHI錯触のディスプレイ装置を活用して様々な実験を実施した.一連の結果に基づきベルベット錯触とサーマルグリル錯覚の組み合わせの効果について調査した.また,異なるモーダルの組み合わせが錯覚に及ぼす影響を調査するために,運動錯覚と視覚フィードバックの組み合わせについても調査した.以上の結果,および前年度までの結果を総合して触覚のGestaltの定式化の試みも進めた.さらに,本研究に関連して2件の口頭発表を行った.以上から,「(2)おおむね順調に進展している」と自己評価した.
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今後の研究の推進方策 |
本理論では,機器制御のために刺激の組み合わせとそれに伴って生じる感情の履歴現象を複数の刺激要因を引数とする関数(調書では汎関数と書いたが汎関数にはとらわれない定式化を進めている)で定式化する.また,ゲートコントロールは振幅刺激の要因により温痛覚の要因を抑制するような定式化により数式に組み入いれることを計画している.以上の定式化により,例えば徐々に不安が軽減する,あるいは快適さが増大するように,VR機器を制御することが可能となることを目指している.この定式化が成功すれば,新しいVRと緩和ケアに革新的な方法論を確立することが期待される.以上の計画の実現のためには,様々なGestalt要因とそれらの組み合わせによって生じる快適さ,自信,安心などの感情の間の関係を調査する必要がある.また,新しい理論の検証のための実験も併せて実施する必要もある.以上の必要性に対応して,様々な実験装置を開発して心理物理実験を実施していく. 特に来年度は最終年度にあたるために本研究の主題の定式化に注力する所存である.装置開発や実験は必要となる実験結果を提供するための補助的な位置づけとなる.本研究でこれまでに明らかにしてきた知見をベースとし,過去に行われた研究代表者グループの実験結果や内外で発表された実験結果も取り入れて定式化を進めていく.装置の制御に役立てるという観点から,生起する感覚とGestalt要因の関係を表す関数関係を求めるという形式でまとめることを目指す.さらに,サイエンスの立場から触覚の心理を明らかにするという目的から本研究で蓄積された知見を総合して統一触覚理論の創成を進め,所望の触覚を生起する触覚モデルを構築する.このような理論創成を進める一方で,錯覚援用統合Hapticデバイスを発案・設計製作し,これを用いて定式化されたモデルの検証も併せ行うことを目指していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者が名大から麗澤大に移動するにあたり,多くの関連設備は移設することに成功したが,ステージ類の一部とか制御装置の移設ができなかった.新しく実験設備を構成しなおすためには,IO関係のボードやコンピュータ等種々の機器を新しく購入する必要がある.麗澤大学の工学部は令和6年度から発足であるために,本年度はまだ準備段階で資金をすべて使うことは得策ではなく,最終年度に残しておく必要があった.また麗澤大学では研究室の学生がまだいないために実験の実施に際して,被験者以外にも実験補助者として雇う必要が生じる.以上のように,最終年度使用額は,実験環境整備と被験者等の謝金に支出する予定である. また,触覚の統一理論構築には,VHI錯触やサーマルグリル錯覚以外の錯触現象の調査が必要であることが研究を進める中で新たに明らかになってきた.例えば運動錯覚もその一つで,本年度その解明のための基礎実験を分担研究者が推進した.これまでの錯覚現象と新しい錯覚現象を総合的に扱うために更なる基礎実験が必要となったために,所定の触覚刺激を生成する装置製作の実施が求められている.実験装置の設計製作,被験者による心理物理学実験と性能評価,及びその成果発表には相当の経費が掛かる見込みであるために,当該年度の経費を次年度に廻した次第である.したがって,最終年度使用額はその装置製作と性能評価にも使用する予定である.
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