生物の身体はロボットよりもやわらかく,多くの関節自由度を持ち,さらに多くの筋肉で駆動される.つまり,ロボットと生物の間には,非常に大きな「柔軟性の差」と「冗長性の差」がある.このうち「柔軟性の差」については,ロボット全体を柔軟にするなどの挑戦が行われ,その利点のみを積極的に追及する分野「ソフトロボティクス」が生まれた.一方,「冗長性の差」については,関節やアクチュエータを可能な限り多くするなどの挑戦は行われていない.そこで本研究では,100以上の独立なアクチュエータを備えた柔軟マニピュレータを実際に開発し,冗長自由度が極端に多いことで可能になる冗長性の利用方法の提案を目指している.具体的には,マニピュレータの開発のため,関節自由度とアクチュエータ数を段階的に増やすことができるスケーラブルな設計方法を提案し,冗長性を利用する方法として,タスク空間に直交する空間に具体的な意味を当てはめていく.最終年度では,前年度までに開発したテンセグリティマニピュレータの耐久性・信頼性の向上に取り組み,長期におよぶ試行錯誤的な運動学習を可能にした.実際に24時間以上の継続したデータサンプリングが実施できることを確認し,運動学習での利用につなげた.冗長性を利用する方法としては,前年度に提案した変分オートエンコーダを利用した直交空間のモデル化をベースに,データの粗密による可動域全体での運動学モデルの難しさに対処するため,能動学習の利用を行った.結果,より広い可動域において,ヌル空間を含む順・逆運動学モデルを学習できた.100以上の独立なアクチュエータを備えたテンセグリティマニピュレータの開発までは完了できなかったが,そのために必要となる技術的課題や運用上の課題については解決に至り,本研究課題の目的はおおむね達成できた.
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