研究課題/領域番号 |
22K19826
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
高玉 圭樹 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (20345367)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | 睡眠時無呼吸症候 / 機械学習 / 無拘束型センサ / 生体振動データ |
研究実績の概要 |
本研究では,睡眠障害の約6割を占める睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)に着目し,布団やマットレスの下に敷いた無拘束型マットレスセンサのみを用いたSAS判定法の考案を目的とする.その達成に向けて,令和4年度では,研究協力者の医師が務める病院で診察を受けたSASの疑いのある患者の実データを用いて,睡眠時における無拘束型SAS判定法に取り組んだ.具体的には,SASの主たる原因である無呼吸や低呼吸(血中酸素飽和度や呼吸気流の低下)を測るには,鼻の気流を測る機器を鼻に設置しないといけないため,申請者が発見したSAS患者固有の振動に着目し,気流機器の設置が不要なマットレスセンサから得られる生体振動データ(心拍・呼吸・体動を含む合成波)を用いてSASを判定する方法を考案した. 本研究に関連する成果として,AAAI (The Association for the Advancement of Artificial Intelligence)のThe AAAI 2023 Spring Symposiaという国際会議,電子情報通信学会のヘルスケア・医療情報通信技術研究会 (MICT),日本睡眠学会の第47回日本睡眠学会シンポジウム,人工知能学会の第36回全国大会という国内研究会で発表するとともに,The 44th Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine & Biology Society (EMBC2023)に投稿した論文が採択された.また,SAS判定内容解釈に貢献する判定ルール生成機構を考案し,Genetic and Evolutionary Computation Conference (GECCO 2022)のBest Paper Awardsを受賞した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,寝具の下に敷いた無拘束型マットレスセンサを用いたSAS判定法の考案に向け,令和4年度では,マットレスセンサから得られる生体振動データ(胸の動きのデータ)に埋め込まれた振動に着目した.具体的には,健常者とSAS患者それぞれの時系列生体振動データを1エポック(30秒)ごとにフーリエ変換し,対数変換をした対数パワースペクトル密度(対数PSD)を全エポックで平均すると,「SAS患者にみられる3Hz前後の山は健常者にはない」という違いを発見したため,この差異に基づくSAS判定法を考案した.具体的には,対数PSDの近似曲線を求め,その曲線との差の累積値が設定した閾値より大きければSASと判定,以下であれば健常と判定する.さらに,健常者とSAS患者それぞれの睡眠中の時系列生体振動データを,アンサンブル学習型の機械学習であるRandom Forest (RF)に与えて学習させ,それらを比較することで人では見出すことが困難なSAS固有の特徴を見出す方法論を考案した. これらの成果により,マットレスセンサのみでSAS判定が可能になるが,その判定率は,病院でのSAS診断で用いられる(多くのセンサを体に付ける必要のある)終夜睡眠ポリグラフ(poly-somnography:PSG)検査に比べて劣り,個人差が大きかったため,その精度向上に取り組んだ.具体的には,就寝中の覚醒時は大きな体動が生じる可能性が高く,得られる生体振動データにノイズがのることが多いため,覚醒時を除いたレム睡眠やノンレム睡眠時に取得した生体振動データのみを用いると,SAS判定精度が大幅に向上することが明らかになった.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究としては,申請書に記載された計画を進めることを基本とする.具体的には,令和5年度では,令和4年度に考案した夜間の「睡眠時」無拘束型SAS判定法に加え,日中の「覚醒時」無拘束型SAS判定法に取り組むことで,夜間にしか判定できなかったSAS判定を日中でも可能にする方法論の確立を目指す.さらに,夜間と日中の両側面からアプローチすることでSAS判定の適用範囲を拡大する. 計画としては,就寝前・起床後の生体振動データを用いたSAS判定を実現し,その方法でうまくいけば,座っている状態での生体振動データを用いてSAS判定を試みる.このとき,睡眠中と日中では同じようなSAS固有の生体振動データの特性を示すとは限らず,3Hz前後の振動の差異が表れにくくなる可能性がある.そこで,睡眠中の覚醒と日中の覚醒が同じ特性を示すと仮定し,睡眠中の覚醒を学習後,日中の生体振動データの中で睡眠中の覚醒と同じ特性を示すエポックのみを抽出し,それらの対数PSDの平均を計算する方法を考案する.これらの研究を通して,無/低呼吸が起こらない日中の生体振動データのみに基づくSAS判定法の可能性と限界を明確化する. 最後に,本研究での成果を,この分野のトップカンファレンスであるThe Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology (EMBC)やThe AAAI 2024 Spring Symposiaなどの国際会議に投稿,計測自動制御学会や電子情報通信学会などの国内研究会で発表し,本研究の成果を社会にむけて発信する.
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