研究課題/領域番号 |
22K19830
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
阿久津 達也 京都大学, 化学研究所, 教授 (90261859)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 生体ネットワーク / 定常状態制御 / 多層ネットワーク / 遺伝子ネットワーク / ブーリアンネットワーク / 編集距離 |
研究実績の概要 |
本年度は複数のネットワークから共通の定常状態の分布、検出法、その応用を中心に研究を行った。具体的には、ブーリアンネットワークという遺伝子ネットワークの離散モデルを用いて、複数のネットワークが与えられた場合について以下の結果を得た。 (1) ランダムなネットワークが与えられた場合に、複数のネットワークに共通に出現する静的な定常状態(singleton attractor)の個数の期待値を導出し、さらに、ある程度の差異を許した場合の静的定常状態の個数の期待値も導出した。 (2) 複数のネットワークが与えられた場合に共通の静的定常状態を計算するための再帰的なアルゴリズムを開発し、その期待時間計算量を解析した。また、より実用的な手法として整数計画法を用いる計算法を開発し、その有効性と限界を計算機実験により評価した。 (3) 実際の生物情報ネットワーク解析への応用として、TGF-βシグナル伝達経路のブーリアンネットワークモデルを基本に、8種類の腫瘍タイプの発現量データに基づき8種類のネットワークを構築し、各ペアごとに共通、もしくは、類似の定常状態があるかを調べた。その結果、定常状態に関する情報は腫瘍の類似性や多様性を理解するのに有効である可能性が示された。 この研究に加え、ネットワークの制御規則が数式で記載される場合も多いため、数式の類似性の比較に関する研究を行った。具体的には、変数つきの木の編集距離という概念を提案し、その問題の計算複雑度などを理論的に解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定とは異なる展開をしている部分もあるが、有用な成果が得られつつあり、順調に進展していると判断できる。特に、複数のブーリアンネットワーク(遺伝子ネットワークの離散モデル)における共通もしくは類似の静的定常状態の期待個数の理論解析や検出アルゴリズムについて情報学的観点から有用な成果が得られるとともに、実際の生体ネットワーク解析にもある種の有効性が示せたことは応用的観点からも重要な進展があったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ブーリアンネットワークについては長年にわたり研究を精力的に行ってきたこともあり、複数ネットワークを対象とした場合については新たな成果を得ることができた。しかし、他のネットワークモデルについては2022年度は十分な成果を得ることができなかった。そこで、2023年度は他のモデルについても、より時間をかけて検討を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの感染状況が十分に収束していなかったため、出張が全く行えなかったため、次年度使用額が生じた。次年度は国内出張を中心にある程度出張を行うとともに、大学院生による研究補助、オープンアクセス論文出版費用、パソコンもしくはワークステーション購入などにより有効に活用する予定である、
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