二酸化炭素は主要な温室効果気体であり、対流圏における濃度増加が大きな問題となっている。本研究では、大気中に放出された二酸化炭素の起源や対流圏内での挙動を把握するトレーサーとして二酸化炭素の三酸素の相対比であるΔ17O (= ln (1 + δ17O) - 0.5229 × ln (1 + δ18O)) に着目し、これを超高精度で定量する手法を開発した。そして、実測データが存在しない主要放出源の1つである陸域生態系の呼吸に由来する二酸化炭素のΔ17O値の定量に挑戦した。本研究では森林を陸域生態系の代表とみなし、陸域生態系の呼吸に由来する二酸化炭素のΔ17O値を決定した。具体的には、陸域生態系呼吸(土壌呼吸、植物呼吸)、化石燃料燃焼といった二酸化炭素の主要放出源に加えて、都市域(愛知県名古屋市)および森林域(滋賀県大津市)にて大気観測を行った。その結果、土壌呼吸と植物呼吸によって放出される二酸化炭素のΔ17O値は、それぞれ+71 permeg、+42 permegと、化石燃料燃焼由来の二酸化炭素に比べて高い値を示すことが判明した。また、森林大気における上昇流(陸域生態系由来)と下降流(一般大気由来)のΔ17O値を比較すると、上昇流が下降流と比べて有意に高いΔ17O値を示し、陸域生態系の呼吸によって放出される二酸化炭素のΔ17O観測結果を支持した。一方、都市大気の二酸化炭素は-100から+50 permeg程度の幅広い変化を示した。このうち低いΔ17O値は化石燃料燃焼に直接由来する二酸化炭素の混合で説明できるが、高いΔ17O値はバックグラウンドの対流圏二酸化炭素より有意に高い結果となった。このような高いΔ17O値を示す二酸化炭素は、陸域生態系からの放出を反映したものであり、都市圏内でも二酸化炭素は陸域生態系と活発な相互作用をしていることが示唆された。
|