研究実績の概要 |
本研究の目的は, メチル水銀から産生する無機水銀がメチル水銀毒性の個人差を生む実態であるという仮説を検証することである。水俣病やイラクのメチル水銀中毒の事例から, 摂取したメチル水銀の量と発現毒性に正の相関を示さない例がみられるように, メチル水銀の感受性に関しては個人差が大きい。メチル水銀は生体内で約5%が脱メチル化し, 無機水銀が産生されることが知られているが, 脱メチル化酵素は同定されておらず, 無機水銀の産生機構は不明である。申請者は, 生体内に脱メチル化酵素が存在し, 発現するアイソザイムの違いによってメチル水銀感受性の個体差が生まれるという仮説を立て, それを検証する。本研究では, メチル水銀の脱メチル化酵素を同定し, メチル水銀から産生する無機水銀による神経変性疾患および糖尿病の発症, 増悪に関わる遺伝子発現に与える影響を明らかにする。このことにより, メチル水銀の摂取が原因で発症・増悪する疾患の予防や治療などへ応用できる。 申請者はMerBの研究から, 細胞内で生じた無機水銀は、メチル水銀の細胞毒性の強さを決める実行因子となりうる知見を得た。本年度は、この細胞毒性の違いを明らかにするため、野生型細胞とMerB発現細胞を用いてオートファジー応答について詳細に検討した。その結果、MerB発現細胞特異的なオートファジー応答を見出し、この応答が無機水銀の細胞毒性を決定する因子の一つである可能性を見出した。
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