研究課題/領域番号 |
22K19851
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
奥田 知明 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30348809)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | エアロゾル / フィルター / 化学分析 / 生物分析 / 有害性評価 / 水溶性繊維 / 細胞曝露 |
研究実績の概要 |
令和5年度は、水溶性フィルターの作製条件物性について検討した。以下に一例を示す。ポリビニルアルコール(Sigma-Aldrich社製、重量平均分子量89,000~98,000、けん化度99.0~99.8 mol%)1.1 gを水:エタノール=9:1の溶媒10 mLに加え、87℃30分間撹拌した溶液を作製した。外径46 mm、内径40 mmのポリプロピレンシート枠を設置し、上記溶液をシリンジに1.5 mL入れ、溶液押出速度0.5 mL/h、ノズル径20ゲージ、ノズル先端からアルミ板コレクターまでの距離15 cm、印加電圧15.0 kV、紡糸時間3時間でエレクトロスピニング法を実施した。得られた水溶性フィルターは膜厚49.4±13.1 μm、繊維径162±49 nm、目付19.4±8.4 g/m2であった。このフィルターの粒子捕集効率を、有効面積 12.88 cm2(直径40.5 mm)、流量 0.5 L/min(通気線速度0.65 cm/s)の条件で光散乱式粒子計数機(RION, KC-01E)を用いて測定したところ、0.3~0.5 μm の粒子において99.1±1.8% となり、その際の圧力損失は 152±47 Pa であった。
作製したフィルターと、市販のPTFEフィルターを用いて、実環境大気中PM2.5を並行して採取した。得られた粒子中の元素組成をエネルギー分散型蛍光X線装置で測定したところ、両者に明確な違いは見られなかった。水溶性フィルターより得られた粒子懸濁液をヒト肺胞基底上皮腺癌細胞 (A549 細胞) に曝露してWST-1 Assayを実施したところ、濃度依存的に細胞生存率が低下した。
さらに、作製した水溶性フィルターを複数の外部機関研究者に配布し、多様な微生物分析ニーズへ応用した。その成果を国内学会発表として複数件報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、水溶性フィルター紡糸条件を確立し、作製した水溶性フィルターの各種物性パラメータの取得、および実環境中での従来法および水溶性フィルターによる大気粒子採取と化学・生物分析を順調に進められた。また、作製したフィルターを複数の外部機関研究者に配布し、多様な微生物分析ニーズへ応用していただくことで、大気粒子の有害性評価研究の化学・生物分野連携を進める上での課題等のディスカッションを多数実施することができた。以上を勘案し、現在までの到達度を、おおむね順調に進展している、と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、大気粒子の有害性発現メカニズムを解明するための基盤技術として、従来化学分析に用いられてきたフィルターの特徴である高強度・高耐候性と高い粒子捕集効率を維持しながら、ある条件では水に溶けて細胞・動物曝露といった生物学・毒性学的実験にも使用することができる、分野間連携を促進するための新規なフィルターの開発と実用化を行うことを目的として研究を進める。 今年度までに、水溶性フィルターの各種物性パラメータの取得を進め、これと並行して実環境中での従来法および水溶性フィルターによる大気粒子採取と化学・生物分析を継続してきた。また、作製したフィルターを複数の外部機関研究者に配布し、多様な微生物分析ニーズへ応用していただくことで、大気粒子の有害性評価研究の化学・生物分野連携を進める上での課題等のディスカッションを多数実施することができた。今後はこれらの議論の中で指摘された課題の解決に取り組み、化学分析と生物分析の両方に有用な水溶性フィルターの完成を目指す。 成果発表については、国内発表4件(大気環境学会、大気バイオエアロゾルシンポジウム)、国際学会1件(Asian Aerosol Conference)、英文学術誌1件(Aerosol and Air Quality Research)を目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)小額の未使用分が発生したため (使用計画)次年度予算と合算し研究費として使用する
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