研究課題/領域番号 |
22K19870
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
三好 弘一 徳島大学, 放射線総合センター, 教授 (90229906)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | トリチウム水 / 膜蒸留 / 気液交換 / 蒸気圧 / ソルベントブラック5 |
研究実績の概要 |
課題1では、トリチウム水HTO分離を目的とし、HTOの膜材料への吸着と疎水性膜による精留法とを融合させHTOを分離する。課題2では、疎水性膜上に親水性材料を重ねることでも膜蒸留が可能であることを課題1で明らかにしたことから、HTOの吸着分離性能の向上を研究するための実験を行った。具体的には、色素であるソルベントブラックを塗布した疎水性膜の下部に異なる水分量を含む親水性と疎水性フィルターを重ねて1セットとすることで、フィルター下部に回収した水中のHTO残存率について100 microLあたりのトリチウムの正味の計数率を液体シンチレーションカウンタで測定して検討した。その結果、親水フィルターとして水(H2O)2.5 mL含んだグラスフィルターを疎水性フィルターとしてPF100(PTFE製)を重ねて1セットとしてソーラーシミュレータ(HAL-320)の照度を約1000 W/m2で1.5時間照射した結果、回収水(0.54~0.49 mL)中のHTO残存率は94%から74%まで低下した。4セット使用した場合、回収水(0.4 mL)中のHTO残存率は12%まで低下した。グラスフィルターに加えた水で単純に回収水中のHTOが希釈された場合のHTOは50%となることから、単純希釈でないことがわかった。蒸気となったHTOが親水フィルターに含まれる水との間で気―液交換反応により水に捉えられた結果であると考えられる。本実験後の疎水性膜上の残留水の温度は約60℃であり、HTOに対するH2Oの蒸気圧比α=1.056より、HTOの回収率12%はフィルター中で39回蒸留をくり返していることになる。この分離は温度が低いほど水とHTOの蒸気圧の差が大きくなることから、本装置を使用して水を含んだ親水フィルターと疎水フィルターを4セット組み合わせることでHTOを効率良く分離できること及びその機構を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HTO含有水を光照射で蒸発させ膜透過させることにより、親水性フィルターに含まれる水の量とフィルターの枚数を調整することで、気―液交換機構によりHTO濃度を減らせることを明らかにすることができた。また、その成果を日本化学会第104春季年会で口頭発表できたため、おおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度では、HTO含有水の蒸気を水を含む親水性フィルターと疎水性フィルターのセットに透過させることで、気―液交換反応によりHTOを効率よく分離できることがわかった。そこで令和6年度では、気―液交換反応を効率的に行わせて蒸留の分離効率を上げうる親水性フィルターと疎水性フィルターの組み合わせについて検討し、HTOの膜蒸留による吸着分離性能の向上を(課題3)目的に研究を実施する。 具体的には、以下の項目について実験を計画し実施する。 1)令和5年度に得られた結果から、親水性フイルターに含まれる水とソルベンブラックによる擬似太陽光の光熱変換反応により生じたHTO蒸気との間の気―液交換反応によりHTOがフィルターに含まれる水に捉えられた結果、装置下部の回収水中のHTOが減少したことから、フィルター中での水の環境を検討する。水の保持や移動が容易なペーパークロマトグラフィ用フィルタや微細なシリカ繊維を含むフィルターを用いて回収水中のHTOの回収率から、気―液交換反応の効率化を検討する。 2)層間水、吸着水、構造水、結合水等異なる水の状態が存在している粘土鉱物(montmorillonite, sepiolite, polygoskite)に含水させて疎水性フィルターに塗布し、ソルベンブラックによる光熱変換反応により生じたHTO蒸気との間の気―液交換反応による分離の効率化について回収水中のトリチウム回収率から検討する。さらに、粘土中に含まれる水にHTOを加えて、膜蒸留により粘土中の水がどのように移動するかを明らかにし、粘土中で水とHTO蒸気の気―液交換反応の機構について明らかにする。 3)1)と2)の結果から効率的なトリチウム吸着分離機構を提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 3月納品となり、支払いが完了していないため。 (計画) 4月に支払いが完了する予定である。
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