研究課題/領域番号 |
22K19879
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
上田 正人 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (40362660)
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研究分担者 |
目崎 拓真 公益財団法人黒潮生物研究所, 研究部局, 研究所長 (20840482)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | ポリプ / ストレス忌避反応 / チタン |
研究実績の概要 |
§1 ポリプの単離と骨格微細構造:ハナヤサイサンゴの断片を浸漬した人工海水の塩分濃度を所定のプロファイルに沿って上昇させることで環境ストレスを与え,ポリプのベイルアウトを誘発した。3.5%から5.5%に5 hで上昇させた場合,最も早く,かつ活発な単離ポリプを得ることができた。一方,塩分濃度を低下させるとベイルアウトは誘発できなかった。なお,この比較は同じ個体から切断した断片で行った。また,異なる個体のハナヤサイサンゴに対して同じ塩分濃度上昇によるストレスを与え,ベイルアウト誘発に要する時間を比較した。CTにより微細構造を観察し,ポリプベイルアウトの難易と関連付けた。Corallite間の距離が短く,開口径が大きくなるほどベイルアウトに要する時間が短くなる傾向が認められた。 §2 ポリプの基盤接着:環境ストレスにより単離されたポリプを各種基盤に播種し,接着挙動を観察した。まず,サンドブラスト処理により表面粗さを変化させた純Ti板(算術平均粗さRa=6.4 μm,3.3 μm,3.0 μm,0.6μm)にポリプを播種した。粗くなるほど,早期に基盤密着する傾向が認められた。さらに陽極酸化処理を施すと純Tiに比べその密着は1h程度早期化した。水酸基密度が上昇したことに起因すると考えている。次にQCM(水晶振動子測定)法を利用し,ポリプの基盤密着過程のその場観察に挑戦した。共振周波数(F)の減少・増加は表面付着物の質量増加・減少,共振抵抗(R)の増加・減少は表面近傍の粘性増加・減少を示唆する。TiO2を成膜したITO電極水晶振動子に単離したポリプを播種し,FとRの経時変化を追跡した。播種20h後に質量増加が,少し遅れて粘性増加が観察された。これはポリプの密着,拡張を反映していると考えている。Tiの表面修飾材に比べポリプの密着が遅いのは,表面水酸基密度が低かったことに起因する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた実験は予定通り実施できた。§1 ポリプの単離と骨格微細構造において,ある程度予想していた傾向を捉えることができたが,ポリプ単離に及ぼす骨格構造の影響が想像以上に強く,本手法を適用できるサンゴ種の数は予定を下回った。一方,ポリプ単離は骨格構造のみならず,その蛍光タンパク等の影響を受けている可能性があることを予定にはなかったが捉えることができた。§2 ポリプの基盤接着において,粗さを変化させた純Ti基盤へのポリプ密着では明瞭な傾向を捉えることができた。一方,QCMでポリプ密着を検出することには成功したが,骨格形成の検出には至らなかった。この検出は非常に困難であることを予想していた。以上より,総合的に「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
§3 外場:ポリプの基盤密着性(密着に要する時間,密着の強さ)に及ぼす微弱電流通電や水流を模倣した力学的刺激など外場の影響を系統的に調査する。密着挙動に及ぼす微弱電流通電に関しては,QCMでも定量評価を試みる。骨格構造に起因してポリプベイルアウトが困難なサンゴ種においては,サンゴ片からTi基盤にポリプを拡張させた後,電圧印加などを利用して,ポリプを単離する手法を確立する。 §4 総括:骨格の微細構造に着目したポリプの分離特性,ポリプの基盤接着特性を体系化すると共に,ストレス忌避反応により単離したポリプを起点とするサンゴ増殖における問題点と課題を抽出する。さらに,サンゴ礁の早期再生の革新的な手段と方向性を提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入しているサンゴ個体は価格の変動が大きく,また時価であるため,その予算の見積もりが非常に難しい。それに起因し,約19,000円を繰り越すこととなった。これは2023年度のサンゴ個体の購入に充てる予定である。
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