研究課題/領域番号 |
22K19885
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
磯部 紀之 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋機能利用部門(生物地球化学センター), 副主任研究員 (10802986)
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研究分担者 |
石井 俊一 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(超先鋭研究開発プログラム), 副主任研究員 (10556913)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | セルロース / 深海底 / 生分解性 / 紙 / レーヨン |
研究実績の概要 |
紙やコットン、セロハン・レーヨンといったセルロース単一素材は環境にやさしい、という漠然としたコンセンサスがあるが、暗闇・低温(摂 氏2~4度)環境である深海底に流出したセルロースの単一素材の分解は極めて遅い。また、残留する微量成分が分解度に大きく影響を与えること も示唆されている。これより、環境にやさしいと考えられているセルロース単一素材は、実は海洋、特に深海底で生分解しないのではないか、 という問いがもたらされる。最悪のシナリオは、環境低負荷材料の切り札として使用された紙などの単一素材のセルロース材料が、深海底では 一切分解されずに海洋ごみとして蓄積し、生態系に大きな悪影響を与えてしまうことである。このシナリオを回避すべく、本研究課題では、セ ルロース単一素材がどのような海洋環境でどんな生物によってどのように分解されるかを、製造工程で残留する微量成分の影響も含めて定量的に精査することを目指す。 そこで2022年度では、紙やコットン、セロハン・レーヨンといったセルロース単一素材が、深海底においてどんな生物によってどのようにどれくらいの速度で分解するかを明らかにするため、相模湾の湾内(都市部に近く、富栄養)、伊豆小笠原諸島付近の熱水域(水温が高く高微生物密度・ 活動)、房総沖の深海平原(貧栄養)といった実験海域に、海洋研究開発機構(以下、JAMSTEC )が保有する船舶や有人・無人探査艇を用いて、紙やコットン、セロハン・レーヨンといったセルロース単一素材を深海底に設置した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度の目標であった紙やコットン、セロハン・レーヨンといったセルロース単一素材の作成と新海底への設置が完了し、当初の計画通りに進行しているため。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、紙やコットン、セロハン・レーヨンといったセルロース単一素材が、深海底においてどんな生物によってどのようにどれくらい の速度で分解するかを明らかにする。 2022年度の進捗の結果、セルロース単一素材の深海底への設置が完了した。2023年度以降は、このサンプルを回収し詳細な分析を行う。 具体的には、重量変化の追跡、顕微鏡観察やX線回折による構造解析、分解前後のセルロース素材の化学成分分析を行う。さらに研究分担者である石井が、次世代シーケンサを用いたメタオミクス解析技術を用いて、セルロース素材に蝟集した微生物叢の解明と、セルロース素材上で高度に発現している機能遺伝子の解析を行うことで、どのような生物がどのようにセルロース素材を分解しているかを明らかにする。 実分解試験を行う海域は、複数の全く異なる深海環境を想定している。これは、海域によってセルロース材料の分解度が大きく異なることが予測されるためである。 またラボ実験として、セルロース素材を滅菌海水と共に高圧容器に封入して静置させることで、低温・高圧・塩分存在下でセルロース素材中に残留する微量成分がどの程度海水中に溶出してくるのかを、ガス・液体クロマトグラフィー質量分析法により明らかにする。得られた結果を 現場分解試験後のセルロース素材に含まれる成分の変化と対比することで、どのような成分がセルロース素材分解生物を誘引するか・忌避させるかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
受注量増加による納品遅延のために、発注を予定したメタゲノムシーケンスの一部が年度内に納品完了しない見込みとなったため、残りの発注を翌年度へと延期したため。これは全体の計画を妨げるものではない。翌年度分として請求した助成金と合わせ、逐次シーケンスの発注を行う。
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