研究課題/領域番号 |
22K19888
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
金野 智浩 東北大学, 薬学研究科, 教授 (80371706)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | リン脂質ポリマー / フェニルボロン酸 / 細胞膜修飾技術 |
研究実績の概要 |
本研究ではマルチリガンド型の細胞凝集・脱凝集化剤を創製し,培養過程にある細胞に対して多価相互作用を用いて可逆的に細胞の凝集と脱凝集の状態を制御できる細胞分離技術の開発を目的としている。 当該年度は本研究に用いる要素ポリマーの合成手法を確立した。親水性モノマーと疎水性モノマー、およびフェニルボロン酸基を有するモノマーからなる3元共重合体について、その組成を制御して合成することに成功した。得られたポリマーの構造解析を行ったところ、ほぼ仕込みのモノマー組成どおりにポリマー内に導入できることがわかった。このポリマーの水溶媒系における溶存状態を評価したところ、疎水性モノマーユニットを導入した場合、一定の濃度以上において多分子会合体を形成し、その内部ドメイン内にフェニルボロン酸基が介在することがわかった。一方、疎水性モノマーユニットを導入していないポリマーの場合、明確な会合体構造を形成しにくいことがわかった。この結果、細胞凝集誘導において、ポリマーの一次構造のみならず、その溶存状態が主要なパラメーターの一つになりうることがわかった。 一方、このポリマーを水不溶性ポリマーとして合成し培養器材の表面修飾材として用いた。フェニルボロン酸ポリマーが物理的に吸着した器材表面上に血球系細胞を播種した際、顕著な細胞接着を認めた。これは細胞膜糖鎖と器材表面のフェニルボロン酸基とが結合したことを示すものである。次年度以降、浮遊系細胞の凝集と脱凝集を可能とするポリマー構造を明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フェニルボロン酸基を有する水溶性リン脂質ポリマーの合成手法を確立した。ポリマー組成を制御することでその溶解性を調節できること、疎水性ユニットの導入により水溶性ポリマーの溶存状態として、一定の疎水性ドメインを有する多分子会合体を形成すること、一方、疎水性ユニットを導入しないことにより会合体を形成しにくくなることを見出した。したがって、ポリマーの溶存状態は各ユニットの組成により制御できることがわかった。また、フェニルボロン酸基を導入したポリマーが細胞膜と特異的に相互作用し、細胞膜周囲に介在できることを見出した。これにより次年度以降、ポリマーの組成、分子量といった分子構造パラメーター、およびポリマー濃度、溶存状態といった物性パラメーター、さらに細胞との接触時間などの相互作用パラメーターが細胞膜の修飾性能に与える影響を明らかにしていく。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度の実施により、フェニルボロン酸基を有する水溶性ポリマーの合成手法を確立した。また、ポリマーの溶存状態が導入するモノマーユニットの特性により多分子会合体を形成する組成と、形成しない組成を明らかにした。したがって、ポリマーの一次構造因子(組成、分子量、配列)と同時に、ポリマーの溶存状態が細胞膜修飾に与える影響を明らかにしていくことができると考えられる。今後の研究の推進方策としては、これらのポリマー構造、ポリマー物性に関わるパラメーターの整理に続き、これらのパラメーターが細胞膜修飾に与える影響を明らかにしていく。細胞膜糖鎖をポリマーで修飾するにあたり、ポリマーの組成や分子量といった分子構造的パラメーターの他に、ポリマーの濃度や溶存状態といった物性パラメーターが細胞の凝集・脱凝集に与える影響を明らかにしていくことで、当該研究課題である細胞凝集・脱凝集化剤の開発を進めていく。これにより培養細胞の凝集についての最適化を行っていく。さらに当該ポリマーは糖鎖との可逆的な結合能を有することから、細胞凝集の誘導と同時に脱凝集に与える影響を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度はフェニルボロン酸基を有するポリマーの合成手法の確立に傾注して実施した。細胞培養系への展開について恒常的な培養系の確立に時間を要したため、当初よりも物品費が少額となった。既に恒常的な培養系を確立したため、次年度はポリマーの大量合成に続き、細胞培養系での物性評価、細胞機能評価を中心に実施していく計画である。
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