研究課題/領域番号 |
22K19889
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吉澤 晋 東北大学, 工学研究科, 教授 (30455802)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | キャビテーション / 強力集束超音波 / Histotripsy |
研究実績の概要 |
非侵襲ながん治療法として最近注目されているものに,強力集束超音波(HIFU)のパルス波を用いた組織破砕治療がある.これは,Histotripsyと呼ばれ,最近では免疫賦活効果も注目されている.Histotripsyでは,非常に強力なHIFUパルス波を集束させ,HIFU焦点において減圧沸騰現象による気泡群(クラウドキャビテーション)が発生させ,この気泡群の崩壊によるエロージョンを繰り返すことで周囲組織を破砕する.そこで本研究では,低いエネルギーと高いスループットを両立する新治療法の開発を目的とし,2022年度は連続的にクラウドキャビテーションを発生させるHIFU照射方法について検討を行った. ここでは,非線形伝播したHIFU焦点波形が引き起こす”shock scattering”現象に着目した.HIFUの焦点波形は,非線形伝播と集束の効果により,短時間で絶対値の大きい正圧と,長時間で絶対値の小さい負圧から構成される.一旦キャビテーション気泡が生じると,この正圧が気泡表面で自由端反射し,絶対値の大きい負圧となって反射される.この反射波の伝播に伴ってクラウドキャビテーションが形成される現象がshock scatteringである.したがって,起点になる気泡が一度形成されれば,その気泡が溶解するよりも早くHIFU焦点を電子的に走査することで,連続的にクラウドキャビテーションを発生させることができると考えた.保有している装置でHIFU焦点の電子走査が可能な実験系の構築を行い,ゲル中に発生させた気泡群の高速度カメラ撮影実験を行った.その結果,HIFU伝播と逆方向に焦点走査を繰り返すことで,効率的にキャビテーション気泡群を生成できることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は,HIFU音場の数値計算を実施し,実験系を構築してクラウドキャビテーションの高速度カメラ撮影を行い,連続的なクラウドキャビテーション気泡群生成が可能なHIFU照射パラメータについて知見を得る計画であった.HIFU音場の数値計算については,既存の数値計算コードを用いることで順調に進めることができた.また,HIFU焦点の電子走査が可能な実験系の構築においても保有している装置で問題は起こらず,順調に進捗した.高速度カメラ実験については,光源が故障するというトラブルがあったものの,故障当初に予想していたよりも修理が短期間に終了したことでおおむね予定通り実験を行うことができた.その結果として,ゲル中でのクラウドキャビテーション気泡群の連続生成が可能なHIFU照射条件,難しいHIFU条件についての一定の知見を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は,ゲル中での高速度カメラ撮影実験を引き続き行うとともに,生体組織でのクラウドキャビテーション気泡群の連続生成についても実験を行う.照射対象が生体組織であるため,光学的に不透明でHIFU照射中の光学的観察が難しい.そのため,超音波イメージングによってリアルタイム可視化を実施する実験系と,生体組織をスライスし,光透過性をわずかながら確保して,高速度カメラ撮影ができる実験系の2つの実験系を構築する.前者では高感度・高精度な超音波イメージング方法,および臨床応用可能なイメージング方法について検討する.後者では,スライスした生体組織の適切な厚み,ゲルファントムに安定的に埋め込む方法などについて検討する.この2種類の実験により,生体組織でのクラウドキャビテーション気泡群の連続生成について,どのようなHIFU照射条件が適切であるかについての知見を得る.
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は,2022年中に高速度カメラ用の光源が故障したため,その修理に予定外の費用が必要となった.その分,計画していたハイドロフォンの購入を延期し,精度については劣るが計測可能な使用年数の長いハイドロフォンを用いて代替するなどし,2023年度分と合わせてハイドロフォン購入をすることにした.そのため,2022年度では残額が生じたが,2023年度にハイドロフォンを購入する分と合わせて,2023年度までで予定通りの使用額となる予定である.
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