人工骨は、機能不全となった骨を修復するための医療機器であり、超高齢社会の医療を支えるために、さらなる高機能化が求められている。これまで人工骨の素材としてリン酸カルシウム系セラミックスがあり、骨と結合する性質(骨結合性)を発現する生体活性材料として知られている。しかし、生体内の環境変化に応答する人工骨用素材は未開拓である。本研究課題では、次世代の人工骨用バイオマテリアルとして「生体応答性材料」の概念に立脚して、 生体不活性材料として利用されてきたチタン系金属やジルコニアを適用し、新たな人工骨用素材の開拓を目指した。骨芽細胞への分化マーカーとなるアルカリフォスフォターゼ(ALP)への応答や、骨芽細胞への分化を促進するイオンの担持と溶出の制御について、ヒトの血漿を模倣した擬似体液(SBF)や、細胞培養系を用いた生体外(in vitro)試験で検証した。さらに、チタン系やジルコニアの基板表面に、層状リン酸化合物やリン酸エステルを形成し、そこに薬剤となるイオンや有機分子、標識のための蛍光物質を導入する技術も探索した。 2022年度までには、チタン系材料の表面を過酸化水素水とリン酸を含む溶液で直接処理することにより、リン酸チタン系の化合物を作製する方法、ならびにジルコニア表面を液相中でレーザー処理することでリン酸ジルコニウム系化合物を形成させる方法について、合成条件を探索した。適切な条件を選択することで、チタン金属板上にリン酸チタンを、リン酸ジルコニウム基板上にリン酸ジルコニウムを、それぞれ形成させることに成功した。2023年度において、層状構造を持つリン酸化合物を有機修飾する技術を探索するとともに、それら化合物中にコバルトイオンなどの生体微量元素、ならびに有機分子や蛍光物質の導入も行った。これらの展開をさらに進めることで、生体に対して状況に応じて応答する機能を持つ材料の可能性が示された。
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