本研究では、脳腫瘍移行性の高い免疫細胞を探索するとともに、腫瘍環境調節によって免疫細胞移行性を向上させ、最終的に免疫細胞に搭載した抗がん剤によって脳腫瘍を治療する。免疫細胞は炎症に応答して能動的に遊走する性質を持つため、新規の薬物送達システムとして注目されている。実際以前研究代表者は、脾臓細胞から得られた免疫細胞に抗がん剤封入リポソームを搭載し、肺同所がんモデルマウスに投与すると、マウスの生存期間が有意に延長することを明らかにしている。一方で、脳は全身の免疫系から隔絶された組織と考えられていたため、免疫細胞の脳移行性に関する知見は乏しい。そこで本研究では、脳腫瘍へ と移行しやすい免疫細胞を同定するとともに、免疫細胞の遊走を促進する手法の確立を行う。また、抗がん剤を免疫細胞に効率的に搭載する方法論を構築し、効率的な脳腫瘍治療法を確立する。 昨年度は、マレイミド末端PEG修飾リポソームを用いて抗がん剤を免疫細胞に搭載した。当該年度は、カチオン性リポソームに抗がん剤を封入して免疫細胞に搭載した。マレイミド末端PEG修飾リポソームを使用した場合と比較して、カチオン性リポソームを用いた方が薬物の搭載効率が高かった。一方でがん皮下移植モデルマウスにこれらを投与したところ、カチオン性リポソームを用いた場合には抗腫瘍効果が得られず、マレイミド末端PEG修飾リポソームを用いた方が有用であることが示唆された。またある種の抗がん剤でがん細胞を処置した際に免疫細胞遊走に関与するケモカインの発現が増加することを明らかにした。
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