一酸化窒素ガス(NO)は体内で産生されて、血管拡張や殺菌、シグナル伝達など様々な生理活性に関与している。特に、副鼻腔においてはNOが活発に産生されていることが知られており、鼻呼吸によって咽頭、喉、気道、肺へとNOが供給されて、平滑筋弛緩・血管拡張・呼吸器経路の殺菌などに寄与していると考えられている。本研究では、副鼻腔の機能のひとつであるNO供給能を模した「人工副鼻腔」を創成し、微量のNOデリバリーによって心肺機能の増強(慢性呼吸器疾患の緩和を含む)や、感染症予防などにつなげることを目的としている。本年度は、更なるデバイスの小型化・簡素化を進めるため、NO発生剤の改良に取り組むとともに、在宅医療や病院外、途上国等での使用も意識して、患者のユーサビリティ向上のためNO発生方法の見直しも進めた。具体的には、亜硝酸イオンを層間に含有させた層状複水酸化物(LDH)と還元剤、多孔体から成る混合物を不織布フィルターや円筒濾紙内に内包してパッチやカートリッジとし、これをマスクや円筒等に搭載することで、大気や吐息に含まれる二酸化炭素や水蒸気を刺激としてNOを発生させ、患者にNOを吸入させる簡易型デバイスを構築した。定常フロー下におけるモデル実験では、デバイス構成やパッチやカートリッジの使用数に応じて簡易的にNO濃度や発生時間のコントロールが可能であったことから、医療現場において適応疾患やユースケースに応じた柔軟な使用ができると考えられる。以上のように、「人工副鼻腔」の概念構築に成功したことから、今後は実用化に向けた検討に進む予定である。
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