研究課題/領域番号 |
22K19908
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
居城 邦治 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (90221762)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | 金ナノ粒子 / ヤヌス型ナノ粒子 / 自己集合 / 光免疫療法 / 近赤外 / 光熱変換 |
研究実績の概要 |
本研究では研究代表者がこれまで開発してきた2つの技術、即ち(1)温度応答性リガンドで修飾した金ナノ粒子の集合化手法と、(2)金ナノ粒子表面の上半分と下半分をそれぞれ親水性/疎水性リガンドで被覆するヤヌス型粒子の作製手法を組合わせ、近赤外光照射により細胞膜を破壊する金ナノ粒子の創製に取り組んでいる。具体的には、細胞膜表面に吸着し留まりやすい形状の円盤状金ナノ粒子(金ナノディスク=AuND)の片面を親水性リガンドで、残りの面を温度応答性リガンドで被覆したヤヌス型AuNDを用いる。生体温度ではAuNDのどちらの面も親水性を示すが、AuNDのプラズモニック波長である近赤外光を照射すると、光熱変換により局所的に温度が上昇し、温度応答リガンドが疎水性へと変化する。この作用により両親媒性が発揮され、界面活性効果によって標的細胞の細胞膜が破壊される。本手法の達成により、生体透過性が高い近赤外光を用いて、標的細胞の破壊効率が高く、毒性を低減した新たな光免疫療法が可能となる。 令和4年度はAuNDを調製し、近赤外光を吸収することを確認した。続いてAuNDの表面に、末端にカルボン酸を有する親水性リガンドとメチル基を有する弱疎水性リガンドを混合して修飾し、温度応答性を付与した。その結果、加熱/冷却に応じて集合/脱集合を示し、カルボン酸リガンドの比率を変えることで集合温度を微調整できることが分かった。また、カルボン酸の負電荷のためにAuNDは良好な分散安定性を示し、培地や血中での応用の際に有利であると期待できる。さらに、AuNDの温度応答性は、昇温と降温で集合化温度が異なることがわかった。これはカルボキシル基が形成する水素結合の強さが、疎水的/親水的な環境で変化することに起因していると考えられる。これを利用して、医療応用も含めた機能性材料としての展開が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度において、まず金ナノディスクを調製し透過型電子顕微鏡(TEM)で評価した結果、意図したサイズの粒子が形成したことが分かった(直径60 nmおよび100 nm)。またUV-Vis吸収スペクトルから、近赤外光を吸収することが確認できた(サイズ60 nm:吸収ピーク715 nm、サイズ100 nm:吸収ピーク827 nm)。続いて金ナノディスクの表面に、末端にカルボン酸を有する親水性リガンドとメチル基を有する弱疎水性リガンドを混合して修飾し、温度応答性を付与した。その結果、カルボン酸リガンドを1%から5%加えることで、加熱/冷却に応じて集合/脱集合を示す金ナノディスが調製できた。特に、カルボン酸リガンドの比率を変えることで集合温度を微調整できることが分かった。この粒子はカルボン酸に起因する負電荷により充分な分散安定性を示したことから、培地や血中でも安定性が高く応用の際に有利である。さらに、この温度応答性金ナノディスクは、高い温度で集合化し低い温度で脱集合化するヒステリシスを示した。これはカルボキシル基が形成する水素結合の強さが、疎水的/親水的な環境で変化することに起因していると考えられる。この新たに見出した性質を利用して、医療応用も含めた機能性材料としての展開が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまで確立したヤヌス型粒子の作製法を改変・最適化し、片面を親水性リガンドで、残りの面を温度応答性リガンドで被覆したヤヌス型金ナノディスクを作製する。このヤヌス型金ナノディスクをin vitroで癌細胞に投与し、細胞膜表面への吸着を走査型電子顕微鏡(SEM)およひ誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)で評価する。続いて、弱い近赤外光を照射して粒子表面の温度をわずかに上昇させ、温度応答リガンドの疎水化による両親媒性の誘起により、細胞膜が破壊されるかを調査する。顕微鏡観察による細胞の形状変化や、生死判定色素での染色により、細胞死を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究開発において、予期していなかった金ナノディスクの新規の性質(集合/脱集合化の温度のヒステリシス)を発見したため詳細に調査し、論文にまとめて発表することができた。一方、当初の実験計画ではヤヌス型金ナノディスクを用いて細胞実験を行う予定であったが、上記の検討に時間を使ったためR5年度に延期することとした。この変更に伴いバイオ実験で用いる高価な試薬の使用頻度が低かった。また学会や会議がオンラインでの開催が主であったため、旅費の使用額が低くなった。これらの理由により、当初見積もっていたよりも予算の使用額が低くなった。一方、次年度はヤヌス型金ナノディスクの細胞を用いた応用実験を中心に行くとともに、成果を海外での国際会議で発表する。そのため生化学試薬を頻繁に使う事とともに高額化している飛行機代に使うことで、繰り越した予算を有効活用する予定である。
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