研究課題/領域番号 |
22K19911
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
横井 太史 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 准教授 (00706781)
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研究分担者 |
川下 将一 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 教授 (70314234)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | ジルコニア / 人工骨 / アパタイト / リン酸八カルシウム / 損傷許容性 |
研究実績の概要 |
ジルコニアはセラミックスの中でも破壊靭性と強度に優れた材料である。そのため、歯科材料の分野において従来から歯冠材料として用いられてきたが、近年ではチタンに代わる人工歯根(デンタルインプラント)としての利用も進められている。しかし、ジルコニアは典型的な生体不活性材料であり、骨組織と直接結合することは無い。ジルコニアを骨欠損部に埋入すると、材料の周囲がコラーゲン線維性被膜で取り囲まれ、周囲の組織から隔離されてしまう。そのため、機械的性質に優れるものの、骨修復材料としては利用することができない。そこで、ジルコニアの破壊靭性をさらに向上させるとともに、骨結合性を付与することができれば、革新的な人工骨を得られると期待される。 研究代表者はこれまでの研究で、カルボン酸含有リン酸八カルシウムを熱分解し、アパタイト/リン酸三カルシウム/熱分解カーボン複合体を得られることを明らかにしており、同複合体を焼結することで、釘を打っても割れないほどの優れた損傷許容性を示す材料を得られることを見出した。これは、同複合体が劈開性を有するためである。 ジルコニアに同複合体を添加すれば、同複合体による劈開性によって材料中を進展するき裂の偏向によって靭性の向上を期待できる。また、同複合体にはアパタイトやリン酸三カルシウムといった代表的な骨結合性材料が含まれていることから、ジルコニアに同複合粉末を添加することによって、ジルコニアへの骨結合性の付与も十分に期待できる。つまり、ジルコニアに同複合粉末を添加することによってジルコニアの弱点を克服した新規人工骨を得られる可能性がある。 そこで本研究ではジルコニアに種々の量の複合粉末を加えた焼結体を作製し、それらの機械的および生物学的特性を明らかにし、次世代のジルコニア製人工骨の設計指針を確立することを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにジルコニア(3 mol%酸化イットリウム添加ジルコニア)に10~50 mass%のイソフタル酸含有リン酸八カルシウムを添加し、十分に混合した粉末を一軸加圧成型して窒素雰囲気中において焼結することで試料を作製した。得られた試料は、イソフタル酸成分が熱分解して生成した熱分解カーボンが含まれているため黒色であった。 得られた試料の結晶相をX線回折で調べた結果、イソフタル酸含有リン酸八カルシウム添加量が増大するほど、リン酸カルシウム成分(アパタイトおよびリン酸三カルシウム)の量が増加した。また、ジルコニアとリン酸カルシウム成分の反応は検出されなかった。試料中の炭素量をCHNS分析によって調べたところ、炭素量はイソフタル酸含有リン酸八カルシウム添加量に伴って増加しており、例えば、イソフタル酸含有リン酸八カルシウム添加量が10 mass%の試料においては0.2 mass%の炭素が含まれていた。 これらの試料を擬似体液に1週間浸漬して材料表面におけるアパタイト形成能を調べた。その結果、意外なことに、イソフタル酸含有リン酸八カルシウムを添加していない試料表面においてもアパタイト形成が観察された。これは材料表面のZr-OHがアパタイトの不均一核形成を誘起したためと推察される。ただし、イソフタル酸含有リン酸八カルシウムを添加した試料では、添加しなかった試料に比べて圧倒的に多くのアパタイト形成が確認された。したがって、ジルコニアへのイソフタル酸含有リン酸八カルシウムの添加によってジルコニアのアパタイト形成能を著しく向上させられることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によってジルコニアに10 mass%のイソフタル酸含有リン酸八カルシウムを添加することによって旺盛なアパタイト形成能(すなわち骨結合性)を材料に付与できることが明らかになった。そのため、ジルコニア製人工骨作製のための組成を決定することができたと言える。しかしながら、これまでに得られている材料は緻密質ではなかったため、強度と靭性は不十分であった。そのため、今後の方針としては、材料の緻密化と細胞を用いた生物学的特性評価を行う。 材料の緻密化については、常圧焼結では困難であると考えられるためスパークプラズマ焼結を検討する。同焼結法を用いれば、1200℃程度で気孔率4%程度の緻密体が得られる実績があるためである。同焼結法はラボレベルでは困難であるため、依頼試験によって研究を進める予定である。得られた緻密体の曲げ試験を行い、曲げ強度、曲げ歪、弾性率を調べる。また、ビッカース硬さ試験によってビッカース硬度を調べる。得られた結果から、材料の靭性を算出し、従来材料よりも靭性に優れることを実証する。 また、細胞を使った材料の生物学的特性評価については2023年度から新たに研究分担者として研究に参画する東北大学の陳助教が中心になって推進する。マウス由来のMC3T3-E1細胞を用いて材料上の初期接着挙動を調べることにより、本開発材料に細胞毒性が無いことを明らかにする。 得られた研究結果を総括し、ジルコニアを用いた革新的人工骨の設計と作製の指針を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた最大の理由は購入を予定していた実験消耗品(粉末成型用金型)を購入しなかったためである。これに加えて、想定したよりもその他の実験消耗品の購入量が少なかったことと依頼分析のための装置が大学に導入され、そのために計上していた経費が不要になったことがあげられる。 使用計画としては、細胞培養実験に必要な消耗品の購入に充当することに加え、一部を細胞培養実験評価用の分光光度計の購入費用に充てて研究を円滑に進めたいと考えている。
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