1型糖尿病では、膵臓の機能不全により膵β細胞からのインスリン分泌が不十分となる。現在、糖尿病治療のために膵島移植が行われているものの、ドナーから採取した膵島は生体内と同様の細胞集合体構造を保つことは困難で、搬送や培養の過程で細胞集合体構造が崩壊したり、細胞が壊死したりする場合がある。その結果、膵島の機能が極端に低下してしまうという問題が生じる。そこで本研究では、膵島本来の構造の保持を可能にしている生体内環境に倣い、本来の構造と機能を保持しながら膵島の三次元培養が可能な足場材料を着想した。具体的には、膵β細胞の集合体形成とインスリン分泌機能を促進するために、コラーゲン変性物であるゼラチンと乳酸‐グリコール酸共重合体(PLGA)メッシュからなるマイクロウェル複合多孔質足場材料を作製した。マイクロウェル構造は、氷微粒子犠牲鋳型法を用いて、PLGAメッシュ上に形成させた。マイクロウェルのサイズは、氷微粒子犠牲鋳型のサイズで制御することができた。また、マイクロウェルは、高密度の極小空孔に囲まれた凹状の構造を有していた。本マイクロウェル複合多孔質足場材料を用いて、膵β細胞のモデル細胞の一種であるRIN-5F細胞を培養したところ、細胞は高いバイアビリティーを示し、ブドウの房状の集合体を形成した。さらに、本マイクロウェル複合多孔質足場材料で培養したRIN-5F細胞のインスリン分泌は、マイクロウェルをもたない平坦な多孔質足場材料やポリスチレン細胞培養プレートで培養した場合と比較して促進されることがELISA測定からわかった。以上の結果は、本マイクロウェル複合多孔質足場材料が膵臓β細胞の集合体形成とインスリン分泌を促進することを示唆した。本マイクロウェル複合多孔質足場材料は、1型糖尿病の治療モデルとして高いポテンシャルをもつことが示された。
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