生体内で加水分解や酵素分解を受け最終的に体内から消失する生分解性高分子は、多くの生体材料や製剤に利用されている。しかし、脂肪族ポリエステルは分解物である結晶性オリゴマーやモノマーが炎症を惹起することが指摘されているものの、これらの課題を克服した生分解性高分子は実現していない。一方、細胞が産生する代謝物が免疫系の活性化やがん化の促進に関与することが近年見出されている。そこで、本研究では炎症収束を促す生体由来のイムノメタボライトを骨格とする生分解性高分子を考案した。本高分子は、分解に伴い抗炎症作用を示すと期待されるため、脂肪族ポリエステルの課題である炎症惹起が克服できると考えた。本研究では、イムノメタボライトを骨格とする生分解性高分子の合成法を確立するとともに、高分子物性の評価、ならびに炎症応答などの生体反応を評価し、免疫活性化生分解性高分子の有用性を明らかにする。 2022年度の研究では、生分解性高分子の合成に関して検討を行った。イムノメタボライト骨格を有するモノマー、及びコモノマーを触媒存在下、交互重合を行うことで合成を行った。既報の触媒を種々検討した結果、有機系触媒で重合の進行が確認された。また、重合により得られた生成物をサイズ排除クロマトグラフィー測定、ならびに核磁気共鳴測定によって解析し、目的の構造の化合物が得られたことが示唆された。今後の計画として、重合条件をさらに検討し、分子量の制御やポリエチレングリコール等の水溶性高分子をマクロ開始剤を用いたブロックコポリマーの合成を目標とする。また、新たに設計した生分解性高分子の力学特性、ガラス転移温度、結晶化度等の物理化学的特性についても解析を進め、既存の脂肪族ポリエステルとの比較を行う。さらに、生分解性高分子の加水分解、ならびに酵素分解性に関して評価を実施するとともに、生体内に埋植時の分解特性、炎症応答についても明らかにする。
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