研究課題/領域番号 |
22K19939
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
伊井 仁志 東京都立大学, システムデザイン研究科, 准教授 (50513016)
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研究分担者 |
小野寺 宏 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任研究員 (20214207)
相澤 健一 自治医科大学, 医学部, 准教授 (70436484)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | ラメラ層 / 計算力学 / 離散モデル / 動物モデル実験 / 内部構造観察 |
研究実績の概要 |
血管中膜のエラスチンシートについて,昨年度までに構築した数理モデルを発展させ,線維モデルの集合体として数理モデル化を行った.エラスチン線維を伸長・曲げに抵抗する弾性線維としてモデル化し,線維間を架橋するクロスリンクを線形バネ要素でモデル化した.初期のネットワークに対し,クロスリンクの自然長を小さく設定し緩和計算を行うことで構造の凝集を促した.クロスリンクの自然長を適切に設定することで,実験観察されているシートの空隙径といった構造的特徴を再現できた.次に,単軸引張の数値実験を行い,シートの巨視的な応力・ひずみ関係を調べた.個々の線維は線形的にモデル化されているにも関わらず,巨視的な応力・ひずみ関係は実験観察から得られている非線形挙動を示したことから,シートの力学特性はネットワーク構造に由来することが明らかとなった.また,クロスリンクの本数および自然長,エラスチン線維の剛性を変化させたところ,パラメータを適切に設定することでマウス中膜の実験結果を再現した.これらより,エラスチンシートの構造および力学特性を再現する数理モデルを構築することに成功した. ラメラ層内の流動解析に向け,メッシュフリー法の構築を引き続き進め,移動境界流れ問題において提案手法の妥当性を示した. 動物モデル実験を実施し,計画した実験条件においてサンプル取得を進めた.取得したサンプルに対し,DAPI染色および透明化を施し,ニ光子顕微鏡観察を行った.この際,胸部大動脈,腹部大動脈を含む血管全長の三次元取得は非現実的であることが分かったため,実体顕微鏡による断面観察と組み合わせ,出血部位などの同定を併せて行い,観察部位を決定した.また,共焦点顕微鏡による観察も併せて行った.解離を表示させる薬剤投与後からの経時観察より,病変部位が増加していく傾向を確認できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画通り,ラメラ層破断に向けた計算力学モデルの構築を順調に行えており,国内外の学術会議で成果を公開している.動物モデル実験は計画通りの実験データが蓄積されている.また,当初は二光子顕微鏡による観察を計画していたが,現実的および実用的な観察のため,共焦点顕微鏡,実体顕微鏡を併用した観察アプローチを図った.以上より,数理モデル構築のための血管構造および出血部位の観察は順調に進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
構築したエラスチンシート構造を用いてラメラ層内のマイクロスケール流動の解析を進めていく.これまでに取得した動物モデル実験サンプルについて二光子顕微鏡,共焦点顕微鏡,実体顕微鏡観察を行い,薬剤持続投与後の経過日数とラメラ層構造の関係を調べる.得られたラメラ層構造を考慮した計算力学モデル解析を実施し,破断プロセスの物理メカニズムの解明に取り組む.
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次年度使用額が生じた理由 |
動物モデル実験について,試薬は既存のものを使用することができたこと,研究補助者の雇用が不要だったことがあり,本実験に必要な経費がかからなかった.これらは数理モデル解析の進捗に応じ令和6年度に実験を実施していく際に使用する計画である. 二光子顕微鏡を設置している建物の作業停電後に顕微鏡が不調となり修理と調整に長期間を要したため予定していた実験が困難になった.現在は復旧し測定も再開しており予算も予定通り執行可能となっている.
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