研究課題/領域番号 |
22K19940
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
浅井 知浩 静岡県立大学, 薬学部, 教授 (00381731)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2024-03-31
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キーワード | drug delivery system / マイクロディスク / 好中球 / 脳梗塞 / 炎症 |
研究実績の概要 |
脳梗塞の病態進行に着目した斬新なdrug delivery system(DDS)の構築を目指し、好中球を薬物担体として利用するNeutrophil-mediated DDS technologyに関する研究を実施した。好中球は炎症に対して速やかに応答する細胞であり、脳梗塞急性期から修復期にわたって脳に浸潤し、障害部位の修復に関与する。そこで本研究では、長期間の薬物徐放が可能な扁平状マイクロ粒子 (マイクロディスク)を好中球に搭載し、単回投与で長期的に脳保護効果をもたらすDDSの開発を試みた。生体適合性が高い乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)を主成分とするマイクロディスクにタクロリムスを封入した。マイクロディスクの細胞接着部は、好中球に発現するCD206とCD44にそれぞれ親和性を有するキトサンとヒアルロン酸をLayer-by-layer法により積層させて作製した。走査電子顕微鏡でマイクロディスクを観察したところ、平均直径は約4 um、厚さは約50 nmであった。また共焦点レーザースキャン顕微鏡でマイクロディスクと好中球の接着の様子を観察したところ、マイクロディスクは好中球に取り込まれることなく細胞表面に保持されていた。タクロリムスを封入したマイクロディスクを好中球に搭載し、好中球の遊走能をトランスウェル法で評価した。その結果、細胞表面のマイクロディスクは好中球の遊走能に影響を与えず、またマイクロディスクは好中球に搭載することで血管内皮細胞の層を通過することが示された。マウス実験において好中球の炎症ターゲティング能をインビボイメージングシステムで解析したところ、好中球が炎症組織に集積する様子が観察された。以上より、マイクロディスクを搭載した好中球を用いたDDSの開発により、脳梗塞巣の炎症部位にタクロリムスを送達可能になることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R4年度は、タクロリムスの徐放性を指標にしてPLGA/PLAマイクロディスクの組成を決定した後、マウスから単離した好中球の表面にマイクロディスクを結合させた。マイクロディスクの好中球への結合は、フローサイトメトリーおよび共焦点レーザースキャン顕微鏡を用いて解析し、細胞表面に効率的に結合していることが示された。タクロリムスを封入したマイクロディスクが好中球の浸潤能に影響を与えないことや、マイクロディスクは好中球に搭載することによって血管内皮細胞間隙を通過することをトランスウェルアッセイで明らかにした。さらにマウスにLipopolysaccharide(LPS)を投与した炎症モデルにおいて、静脈内投与した好中球が炎症部位に集積することを実験的に証明した。現在はphotochemically-induced thrombosis(PIT)法で作成した一過性中大脳動脈閉塞マウスを用いた検討を進めている。以上の進捗状況から、全体としてはおおむね順調に推移していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
我々が研究開発を進めているNeutrophil-mediated DDS technologyを用いて脳梗塞の炎症部位にタクロリムスを送達することにより、脳梗塞急性期から修復期に至るまで細胞保護効果を作用機序とした脳保護効果が期待できる。今後は一過性中大脳動脈閉塞モデルマウスを用いた試験を中心に検討を実施する。マイクロディスクを搭載した好中球を一過性中大脳動脈閉塞モデルマウスに静脈内投与し、好中球、マイクロディスク、およびタクロリムスの体内動態について検討する。脳梗塞急性期から修復期に至るまでマイクロディスクの送達が可能であるか検討する。さらに、好中球を用いて送達したタクロリムスの脳保護効果を明らかにするため、脳細胞死、脳浮腫、および運動機能障害に対する抑制効果を検討する。特に運動機能障害の改善効果を詳細に解析し、長期的な細胞保護効果による脳機能の回復について明らかにしたい。Neutrophil-mediated DDSが従来のDDSでは得られない脳機能回復効果をもたらすことを実験的に証明することにより、本研究のProof of Conceptを行う。
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