脳梗塞の病態進行に着目した斬新なdrug delivery system(DDS)の構築を目指し、好中球を薬物担体として利用するNeutrophil-mediated DDS technologyに関する研究を行った。好中球は炎症に対して速やかに応答する細胞であり、脳梗塞急性期から修復期にわたって脳に浸潤し、障害部位の修復に関与する。そこで本研究では、長期間の薬物徐放が可能な扁平状マイクロ粒子 (マイクロディスク)を好中球に搭載し、単回投与で長期的に脳保護効果をもたらすDDSの開発を試みた。生体適合性が高い乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)とポリ乳酸(PLA)を主成分とするマイクロディスクを作成し、好中球に搭載した。マイクロディスクの細胞接着部は、好中球表面のCD206とCD44にそれぞれ親和性を有するキトサンとヒアルロン酸を積層させて作製した。マイクロディスクは好中球に取り込まれることなく細胞表面に保持された。マイクロディスクの薬物担体部の組成を最適化し、タクロリムス徐放型のマイクロディスクを作成した。タクロリムスの放出試験を行ったところ、最適化したマイクロディスクを用いることで、2~4週間の薬物徐放が可能になった。またタクロリムスの封入はマイクロディスクの好中球への接着に影響を及ぼさなかった。急性肺障害モデルと中大脳動脈梗塞モデルを用いて好中球の動態を評価したところ、好中球が炎症組織に集積する様子が観察された。以上より、マイクロディスクと好中球を用いたDDS技術の研究開発により、炎症部位への薬物送達が可能になることが示唆された。
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