研究実績の概要 |
本研究では, 正電荷を有する生分解性ポリマーミセルを,樹状細胞(DC)に親和性を有するヒアルロン酸(HA)で被覆した高い安定性を有するナノ粒子(HA被覆ミセル)を用いて,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する免疫獲得を可能にする経鼻投与型ナノ粒子ワクチンシステムを開発する。 昨年度までに,オボアルブミン(OVA,分子量=44,500, 等電点=4.5)およびラクトフェリン(Lac,分子量=83,000, 等電点=8.2)をモデル抗原として,オリゴ核酸型アジュバント(CpG-DNA)ともに担持したHA被覆ミセルを調整し,骨髄由来樹状細胞(BMDC)への取り込みと活性化,鼻腔投与による特異的抗原(IgG, IgA)分泌の誘導に成功した。 今年度は,市販のSARS-CoV-2のスパイクタンパク質(CoV-SP, 分子量=130,000,等電点=8.9)を担持したHA被覆ミセルを調製し,その免疫応答挙動について調査した。その結果,Lacと同様に,pHを制御することによりミセルへの担持が可能であった。得られたミセルをBMDCに作用させたところ,高い細胞取り込みとサイトカイン産生能,MHCクラスII抗原の発現などのBMDC活性化が達成されることが明らかとなった。また,マウスへの経鼻投与により,CoV-SP特異的な抗体(IgG)の血中分泌,唾液や鼻腔浸出液中におけるCoV-SP特異的抗体(IgA)の分泌を誘導できることも分かった。しかし,特異的抗体の発現は見られたものの,OVA, Lac, CoV-SPの三者での比較では,血中に産生される特異的IgG抗体価は,抗原溶液だけを投与した場合と比較して,それぞれ,50倍,19倍, 5倍であり,CoV-SPの場合が最も低かった。これは,元のタンパク質の免疫原性の強さ,分子量,生理的条件でのタンパク質の遊離などの原因が考えられる。
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