研究実績の概要 |
本研究の目的は、古代インド叙事詩『マハーバーラタ』の第13, 14巻の読解を通して、その編纂時期(BC2C~AD4Cごろ)における布施の社会的役割を考察することである。本年度は特に第13, 14巻における布施の役割及び第13, 14巻の成立史について研究を行った。 第14巻では、ユディシティラ王が行った布施が、落穂拾いによって清貧の生活を送るバラモンによる布施と対比されるが、第13, 14巻において、ユディシティラおよび落穂拾いを行うバラモンについて様々な異なる評価がなされる。本研究では、ユディシティラとバラモンが対比される当初の意図はバラモンの王族階級に対する優位性を示すことにあったことを示し、後代の挿入と思われる部分において、無私無欲の精神に基づいて布施を行うことや、バラモンの宗教的権威を前提として王族が社会を支配するといった概念が含意されるようになったことを示した。また第13巻では様々な布施の議論が展開されるが、先行研究では第13巻における布施の議論は、第13巻に先行する第12巻における諸説を敷衍したものであると考えられてきたが、第13巻の内容はむしろ第14巻における布施の諸問題についての解説として理解すべきであることを示した。 また第14巻の成立史について、先行研究では第12巻と第14巻における内容的重複から、第12巻の方が成立が早いと考えられてきたが、その内容的重複のなかにも第12, 14巻で意味づけが異なることや、『マハーバーラタ』編纂途中に書かれたと思われる現存最古の巻名リストには第12巻と第14巻が併記されていることから、両巻について現段階で前後関係を決定することはできないことを明らかにした。 さらに本研究の過程で明らかになった『マハーバーラタ』写本伝承や口頭伝承の諸問題について、論文やシンポジウムでの発表という形で研究成果を公表した。
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