研究課題/領域番号 |
22K19957
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
杉山 美耶子 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (50962932)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | アドルネス一族 / エルサレム礼拝堂 / ブリュージュ / ヒエロニムス・ボス / 神聖空間 / ヒエロトピー |
研究実績の概要 |
2022年度は特にブリュージュのアドルネス一族礼拝堂、通称エルサレム礼拝堂に焦点をあて、絵画・彫刻・建築装飾などの〈オブジェクト〉と、儀礼における信者の動作や光・香の動きなどの〈ムーブメント〉をとおし、本聖堂において神聖空間が創り出されているシステムを分析した。 1)巡礼に関わる史料の精査:本聖堂の抜本的改修のきっかけとなった、アンセルム・アドルネスとヤン・アドルネスが1470-71年に行ったローマ・エルサレム巡礼に関わる史料を精査し、彼らがエルサレムで実際に目にしたもの、あるいは彼らのエルサレムにおける〈記憶〉を再構築した。 2)エルサレム礼拝堂の分析:1480年頃に改修を終えたエルサレム礼拝堂の内部構造を、聖堂のプランや目録をもとに分析した。先行研究において、同礼拝堂はエルサレムへの霊的巡礼(祈祷や瞑想などの宗教的実践をとおして、身体的巡礼と等価の恩寵を得ることが出来る「心の巡礼」をさす)を行うための空間ととらえられるが、その空間を創り出す様々な要素を分析することで、本礼拝堂が帯びるその他の機能を明らかにすることを目的とした。 3)エルサレム礼拝堂の絵画作品への影響:エルサレム礼拝堂は1480年以降、ブリュージュのランドマーク的存在となり、多くの訪問者、巡礼者を引き付けた。絵画作品の都市景観にその外観が描かれている作例は、先行研究でも指摘されてきたが、礼拝堂の内部に据えられた「ゴルゴタの丘」を表した祭壇衝立が、絵画作品に与えた影響については等閑視されてきた。本研究では、「ゴルゴタの丘」祭壇衝立の影響が認められる具体的作品として、ヒエロニムス・ボス作《東方三博士の礼拝》三連画(1494年頃)の閉翼時場面「グレゴリウスのミサ」を指摘し、図像分析と図像源泉の特定を試みるとともに、注文主とアドルネス一族の接点も解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究にもとづく口頭発表を複数回行い、現在論文3本の準備を進めている。アドルネス一族とのインタビューを計画していたが、スケジュール調整が難航したため、本年度は現地調査を見送った。2023年度に再度調整を試みたい。 一方で、神聖空間/ヒエロトピー理論研究を深めることが出来た。他の時代・地域の専門家と共同研究を行い、ヒエロトピー研究に関わる方法論や用語、概念について、議論を重ねた。特にビザンチン建築・美術、エチオピア建築、日本・タイの仏教儀礼と伝承、以上の各専門家と共同研究を行った(*本共同研究にあたっては、YLC共同研究助成と大幸財団人文・社会科学系研究助成の支援も得た)。各専門家の神聖空間にかかわる事例研究と自身のネーデルラントにおける一連の事例研究を比較することで、諸種の新たな観点を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、2022年度の研究にもとづき準備中の論文3本をすべて出版することを目指す。これらは一度国際ジャーナルに提出したが、修正を求められたものである。エディターらの助言をもとに、現在改訂を重ねており、2023年度中の再提出・受理を目指す。 第二に、本研究の成果を国内外の学会で口頭発表する。既に2023年5月の国内学会、国際学会での発表が決まっているが、最低でも更に2回口頭発表ができる機会を設けたい。これらの口頭発表に基づく論文の執筆を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
アドルネス一族とのブリュージュにおけるインタビューを計画していたが、スケジュール調整が難航し、海外渡航を行わなかったため。
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