社会実験における無知をうまく扱うには、科学研究が無知を生じさせるメカニズムを理解する必要がある。本研究では、クーンのパラダイム論を足掛かりに、分子生物学史を主な題材として分析を行った。パラダイムとは、それを共有する科学者集団に思考の枠組みをもたらすものであり、適切な問いの立て方や研究方法などを規定している。パラダイムは効率良く研究を進めるうえで不可欠なものであると同時に、否応なく無知を生じさせる。本研究では、パラダイムの各構成要素が無知の源泉となりうることを確認した。さらに、生じた無知によって重大な帰結が生じることを防ぐためには、複数のパラダイムを並立させることが重要であることを示した。
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