本研究は、第一次世界大戦中に中国・青島(チンタオ)から日本へ収容されたドイツ軍捕虜(俘虜)による音楽活動に注目し、それが東アジアの近代化と西洋文化受容の中でどのような意味をもっていたのかを明らかにすることを目的とする。 2023年度には①音楽活動の成立をめぐる外部社会との連携、②名古屋収容所における音楽・文化活動に重点を置いて研究を進めた。 ①に関しては、陸軍俘虜情報局や個々の収容所が発行する報告書類を精査することで、音楽を含む文化活動が陸軍側からどのように見なされていたのかを考察した。②に関しては、収容所の中でも名古屋収容所に着目し、文化活動の実態解明と、収容所の置かれた文化状況の検討を行った。 2022年度からの研究期間を含めると、以下の3点が明らかになったと言える。(1)俘虜収容所の音楽・文化活動に対する陸軍側の扱いが、約5年の収容期間の中で規制対象から収容所運営に欠かせないものへと変化していったこと。(2)俘虜による音楽活動が、青島時代の軍楽隊の音楽実践を直接的に受け継ぐよりも、近代ドイツのコンサート文化を反映するものであること。(3)名古屋収容所において、収容末期に演劇を含めた文化活動が盛んにおこなわれていたこと。 以上の研究結果を踏まえ、今後は名古屋収容所を主な対象として、日本の洋楽実践・洋楽器産業との関りをさらに追求するとともに、収容所の国際比較を進め、日本におけるドイツ軍俘虜の音楽実践の歴史的意義を明らかにすることが目標である。
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