本研究は、西晋期から東晋期にかけて文学史上に出現した「玄言詩」の隆盛に着目し、それを直前の魏晋交替期に盛行していた「魏晋玄学」の思想史的文脈に接続させようとする取り組みである。その目的は、これまでの研究史において取り上げられることの少なかった「玄言詩」に着目し、さらにそれを先秦期の古典思想ではなく、直近に盛行していた「魏晋玄学」の思想史的文脈に配置することで両者を接続させ、一貫した構想のもとに描き出すことにある。そこで本研究は「魏晋玄学」および「玄言詩」の各種資料について、単に使用語彙の類似だけでなく、思想的背景、および論理や修辞的技巧などを含めて総合的に精査しつつ、両者の影響関係の実証的な探究をおこなうことで、これまで必ずしも有機的に結びついてこなかった魏晋時代の思想史と文学史の汽水域を解明し、両者をなめらかに疎通させながら統合的に把握することを目指すものである。 上述の目的のため、本研究では、主に以下三件の個別的対象についての検討をおこなった。 第一は、西晋の何劭による詩文を対象とした。彼は荀粲、王弼といった魏晋玄学の開拓者たちの伝記を制作しており、玄学的語彙を多用した詩を著した。本研究ではとくに当時の重臣である張華との贈答詩に注目し、口頭報告と論文を発表した。第二は『周易』注釈史における魏の王弼と、東晋の韓康伯である。両者の比較研究には、すでに古典的成果があるが、本研究ではあらためて、両者による議論に見えている力点の差異を魏晋玄学の動的展開として再解釈し、このことについて口頭報告をおこなった。第三は、東晋のユ闡である。彼は東晋玄言詩を代表する人物であるが、一方で荘子解釈、周易解釈をめぐる論考を発表している。本研究ではそれらを横断的に検討することで、魏晋玄学と玄言詩を相互に一貫するものとして把握する視座を提示した。口頭報告のほか、本件は論文としての発表を予定している。
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