研究課題/領域番号 |
22K19973
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
繁田 歩 早稲田大学, 文学学術院, 助手 (80961622)
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研究期間 (年度) |
2022-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | イマヌエル・カント / 様相 / 様相論理学 / 様相形而上学 / 認識的様相 / マイノング主義 / 分析哲学 / 近代ドイツ哲学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はカントにおける「様相」論を論理学・形而上学・認識論の三つの観点から再検討することである。すでに報告者はこのテーマについて内定が発表された8月31日以降、約半年にかけて取り組んできた。2022年度はRAや研究補助員を雇用することで関連分野への文献調査などを行った。報告者自身の成果としては、特に様相カテゴリーの現実性概念について、その指標性を指摘する論文として「カントにおける現実性の指標性について」を発表したことが挙げられる。また、学会発表において、カントの可能的存在者の概念を軸として、様相形而上学的な観点にまで議論を「存在述語の様相形而上学的分析」と題して発表した。第一の成果においては、カントの現実性に着眼して、『純粋理性批判』要請章における議論は現実性の唯一性を導くが、カテゴリー論における広範な論理的意味においては現実性は指標的なものであるという区分をもたらした。また、第二の発表成果においては、可能的対象者possibiliaについてのカントの言及をとらえなおすことで、彼の様相形而上学観がライプニッツ=ヴォルフ哲学における可能主義的なそれとどのようにことなるものであるかを指摘した。 本研究が注目しているのは、カント論じている「様相」がなにを意味しているのかを確定することであった。すでに先行研究において、カントの様相概念には論理学・認識論・そして形而上学の三つの意味合いが混交している可能性が指摘されてきたのではあるが、それを本研究を通じて詳細に区分することが試みられている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度の研究は研究活動スタート支援への内定が発表された9月ごろから本格化したのであったが、それに比して比較的多くの研究成果を挙げることができたと考えている。具体的には論文を1件、発表を1件、小研究会での発表を2件終えることができた。このことは実質的には半年の研究期間としては十分な成果であったと考えている。また、RAや研究補助員の雇用によって、効率的に先行研究の文献調査などを達成できたことも、上のような成果を挙げることのできた一因であると考えている。 とはいえ、2022年度は新任であった本務校での勤務に慣れていくために、比較的多くのエフォート率を割かれた感もあり、当初計画していたように2022年度中に海外への研究渡航をおこなうことができなかった。たしかに、2022年度は国内の研究者との学術的な対談の場を多く持つことができたことも成果の一つである、しかし、海外渡航が不発となったことは本研究計画に即してみれば若干の遅れであると考えている。 以上を踏まえたとき、本研究の進展度合いは、当初の計画以上の進展があったとは言えないが、しかし十分に「おおむね順調に進展している」と評価することができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は昨年度の状況を鑑みつつ、積極的に海外渡航計画を実行に移すことで、研究の進展を一層確かなものとしたい。すでに本年夏季にはヨーロッパ圏の研究者との研究会を開催することを企画しており、特に2023年度前期はそこに向けて研究を行っていく予定である。夏季の成果を踏まえて、可能であれば2023年度末には、一連の成果のとりまとめのための研究会を開催することを予定している。 また、昨年度と同様に研究補助者を雇用することも計画しており、これによって効率的に文献調査を行うことが可能となると考えている。報告者自身の研究の方針としては、昨年に論じた様相形而上学的なカント解釈に対して呈された批判的なコメントに応答することを目標としている。特に答えられるべきは次の三点である、第一に、カントをクワイン主義的に非様相的な議論として読むことがなぜできないのか、あるいはクリプキのように可変領域意味論として理解することがなぜできないのかを説明すること。第二に、カントが様相について論理と認識論と形而上学を混同していたことは、救いようのない瑕疵なのではないか、という批判にこたえること。最後に、第三に、現実性と存在述語の論理との間にある認識論と論理学との溝を埋めることである。 これらの推進方針に加えて、2023年度は、カント道徳哲学の文脈において散見される「実践的可能性」概念について調査をすすめることで、研究のさらなる進展を目指していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度は研究補助員の採用について、余裕を持った予算運用となったため、44,642円の余剰が生じていた。これは、報告者自身が研究補助を雇用する経験が少なかったことにも起因するものであり、今後はより一層計画的に予算運用が可能となるといえる。本余剰分については2023年度に合わせて請求し、2023年度の予算においては、同様に研究補助への人件費のために用いる予定である。
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